(イラスト=モリナガ・ヨウ)
(イラスト=モリナガ・ヨウ)

 認知症の症状の進行とともに、母は家事ができなくなり、私が引き継ぐようになった。最初は掃除だ。母は、自室だけは「自分でやるから放っておいてちょうだい」と主張していた。

 だが掃除している様子はない。「これはホコリだらけの部屋に寝起きしているな」と判断し、嫌がるのを無視して掃除したところ、嫌になるぐらいの大量のほこりが掃除機の中にたまった。これはいけない。こんな環境で寝起きしていては体調を崩してしまう。

 自業自得と切り捨てて……はダメだ。母が体調を崩せば、その看護の負荷は自分に回ってくる。家全体の掃除が私の日常の仕事となった。そしてゴミ出し、三度の食事も。母は味付けをしくじるだけでなく、ガスコンロのすぐ横に乾いた布巾を無造作に置いたりするのだ。まず台所を大掃除して、調理用具や食器の配置を変えた。母は面白くなかったらしく、色々文句を言われた。

 かくして台所の主権は、私に移った。

 しかしその後、母はなにかと旧宗主国のように台所を検分するようになった。蛍光灯がつけっぱなしになっているとこまめに消灯するし、うっかり食器戸棚が開けっ放しになっているとこれ見よがしに音を立てて閉める。「ここは自分の場所だ」とアピールしたかったのだろう。これは姑の行動パターンだ。……とほほ、まさか実の母に姑の嫁いびりのようなことをされるとは思ってもいなかったよ。

 そして洗濯、布団干し、父の位牌の入った仏壇の管理と、生活のすべてが私にかかってくるようになり、それらがストレスにつながった。

 掃除に料理に洗濯にゴミ出し──普通の家庭でも行っていることだ。「うちは私が全部やっている。それがストレスってどういうこと?」という既婚女性の声が聞こえてきそうだ。子供に加え舅姑と同居、という方もおられるだろう。家族の面倒を見つつ働いている方からすれば、「それぐらいで悲鳴を上げるんじゃない、軟弱者め」であろう。