世界中の自動車メーカーが自動運転で頼る米エヌビディア。「知る人ぞ知る」半導体メーカーは、AI時代の寵児になりつつある。自動車を操ろうとする同社の実像とは。

(写真=Getty Images News、iStock / Getty Images Plus)
NVIDIAとは

 1993年創業。ゲームやパソコン用の画像処理が得意な半導体「GPU」を主力製品とする。生産を外部に委託するファブレスメーカーで、台湾積体電路製造(TSMC)と韓国のサムスン電子に製造を委託する。

 ニッチ企業の性格が強かったが、培った高度な画像処理技術を生かし、AI用の半導体で台頭。2017年1月期の売上高は69億1000万ドル(約7900億円)。AI関連事業の急拡大によって、前年同期比で2200億円も増加した。今期に入ってさらに成長ペースが加速している。

 日経ビジネスオンラインで同社の実力を詳報したところ大きな反響を呼んだため、加筆して集中連載する。

 米ニュージャージー州ホルムデル。半導体大手の米エヌビディアが自動運転の開発拠点を置くこの地方都市の郊外で、4月中旬、本誌は1台の黒いクルマが走っている姿をとらえた。

 米フォード・モーターの高級車「リンカーン」を改造した、エヌビディアの自動運転試作車「BB8」である。

<b>エヌビディアの試作車「BB8」。AIが周囲の状況を読み取りクルマを操る</b>(写真=林  幸一郎)
エヌビディアの試作車「BB8」。AIが周囲の状況を読み取りクルマを操る(写真=林 幸一郎)

 「世界の技術を支配する」といわれ、20世紀にトランジスタやC言語など革新的技術を次々に生み出した「ベル研究所」。くしくもその跡地で、エヌビディアによる今後の自動車を“支配”するかもしれない実験が行われていた。

 一見、普通のクルマ──。ただし、試作車「BB8」は1点だけ、クルマの常識を超える“個性”を持つ。

 人間ではなくAI(人工知能)がクルマを運転する、という点だ。

AI時代の寵児に躍り出る

 同社は長らく、ゲーム用半導体をはじめとするニッチ市場のプレーヤーの一社にすぎなかった。「知る人ぞ知る」存在だった同社は、AI時代の寵児になりつつある。ただし、その実力はいまだベールに包まれている。本誌は世界で初めて、エヌビディアに密着取材。本連載では、その実像を描く。

 毎日のようにAIと名が付く製品や技術を聞くようになった。注目される理由は、端的に言えば本格的な実用段階に入ったからだ。

 AIの特徴は「学習する」点にある。人間の脳を模した計算手法「ディープラーニング」で、人間が教え込まなくても自ら進化することが可能になった。学習した内容と全く同じ問題でなくとも、AIは類推して答えを導き出す。

 自動運転は、まさにAIの出番といえる。センサーやカメラが捉えた人や障害物などの情報をインプットすれば、どのルートをどの程度の速度で走ると安全に通行できるかをAIが判断し、クルマを操ってくれるわけだ。

 自動車メーカーではなく半導体メーカーが試作した「AIカー」であるBB8。その運転席に座ったテストドライバーが時折、サンルーフからわざと手を出してこちらにヒラヒラと手を振った。「ハンドルを握らなくても問題ない」という合図である。右折、左折、車線変更……。高速道路も一般道も自動運転でスイスイとこなしていく。

 この技術力にトヨタ自動車がほれ込んだ。5月10日、トヨタはAIによる自動運転について、半導体世界シェア10位以下のエヌビディアと提携すると発表。自動車業界と半導体業界にとって、序列の崩壊を象徴する提携である。

 トヨタは車載用の半導体を内製するほか、グループ会社のデンソーや、株式を保有するルネサスエレクトロニクスなどから調達している。自動運転の頭脳となる半導体を外資系企業から調達するのは異例だ。

次ページ トヨタがほれたGPUって何だ