(イラスト=五島 聡)

 トヨタの工場で大野耐一が始めた「かんばん方式」が世の中に取り沙汰されるようになってから、さまざまな解説本が出た。それを読んだ大野は現場に来て、わざわざ部下にくぎを刺した。

 「いま、かんばんについてまとめた本がいくつも出ている。私も読んだ。だが、これは実践をやっていない者にはわからん。キミらは実践で学んでいるのだから、私の書いた文章も含めて本は一切、読まんでいい。読んだって理解できんのだから」

あえてわかりにくく
トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして―』(大野耐一著、1978年刊)

 確かに、世の中には「かんばん方式」あるいは「トヨタ生産方式」を解説した本がたくさんある。大野自身、大野の弟子たち、そして研究者、新聞・雑誌記者も書いている。

 いずれの本も「ロット生産」「タクトタイム」「リードタイム」などの専門用語を駆使してある。一般読者は専門用語が出てきただけでもう読む気が起こらなくなるし、理解もできない。

 確かに、この手の本は読むだけでは頭のなかに工場現場の映像が浮かんでこない。まして、「後ろの工程が前の工程へ引き取りに行く」と言われても、それがどう画期的なのかちっともわからないのである。

 本当に理解しようと思ったら工場へ行くしかない。それもトヨタの工場だけではダメだ。トヨタの工場と他の自動車会社の工場を見比べることだ。そうでないとトヨタ生産方式のどこが革命的なのか見当がつかない。

 トヨタ生産方式を採用している工場へ行くと、中間倉庫がない。また、工場内の部品置き場がなくなるか小さなスペースになっている。そこを見るのだ。

 では、なぜ、大野は「本を読まなくともいい」と言ったのか。