(イラスト=五島 聡)

 販売の現場をカイゼンする。トヨタ生産方式の導入に取り組んだ名古屋トヨペットでは、トヨタからやってきた友山茂樹(現・専務役員)の指導を受けながら納車前点検や車検などをカイゼンしていった。そして次に取り組んだのが営業現場でのカイゼンである。

接客の時間を最大化

 まずひとりの営業マンが一日、どんな仕事を何分、行っているか作業分析をしなくてはならない。友山はストップウォッチを手に一日中、セールスマンに付いて歩く。「バックヤードの整理、20分」「業務日誌の記載、30分。セールスへ出かける準備、5分」などとつぶやきながら、後ろにぴたりと付く。

 「友山さん、これからお客さんのところへ行くから事務所で待っててよ」

 販売店の営業マンは「お前は早く消えろ」みたいな念力を送りながら、そう告げる。だが、友山は平然として、「邪魔にならないようにしますから」と先にドアを開けて助手席に乗り込んで待つ。車のなかでもストップウォッチを手放さない。営業マンが客にセールスの話をしている時だけはストップウォッチは隠すけれど、後ろ手に持って計測する。面談の後に「接客時間、2分」などと記す。何人ものセールスマンについて時間を計ったのだが、全員から、「あんたがいると車が売れなくなるからやめてくれ」と怒鳴られた。

 それでも、時間分析を行わないと営業のカイゼンができない。友山は「ずいぶん怒られました」と振り返る。

 「実際に営業マンの仕事を見ると、お客さんと接している時間は意外に短い。おそらくどんな職種でも一緒ですよ。自分は長く感じているかもしれないけれど、セールストークをしている時間なんてあっという間なんです。

 それには原因があって、ひとつは事務の仕事や車の査定をしている時間が長くなってしまうから、接客の時間が物理的に短くなる。

 あの時、私たちがやったのは、接客する時間を最大限に増やすためのサポートでした。接客以外の仕事のムダを切り詰め、余裕のある接客をしてもらうことが目的でした。それが今ではもっと進んでいて、成約率を上げて、見込み客の開拓に時間をかけるといったことまでやっています。

(写真=アフロ)

 もうひとつの原因はセールストーク自体に内容がないこと。事前に準備していかない場合、話は続きません。

 営業マンはストップウォッチを嫌がるんですけれど、時間を計測していると、人はみんな頑張ってしまうんですね。『いつものようにやってください』と言っても、一週間分の新規開拓を4日で終えてしまう」

 名古屋トヨペット社長の小栗一朗も「販売は余裕を持つことで結果が変わってくる」と友山の言葉をフォローする。

 「あの時の販売カイゼンはセールストークの指導でもないし、セールス技術の研修でもありませんでした。しかし、店舗やヤードの整理整頓をして、オフィスの仕事や打ち合わせ時間を短くすれば余裕を持ってセールスに臨むことができます。事前に話題を考えていくこともできる。

 やるべきことをやっていると自然と笑顔が生まれる。TPS(トヨタ生産方式)を入れたおかげもあって当社は長年、総合表彰を取っています。収益、CS(顧客満足度)などを含めたすべての点でいい成績を取ったディーラーがもらえる表彰です。TPSを経てから、うちはさらによくなった。

 そして、僕自身がいちばんよかったと思うのは、残業が減ったこと。定時に仕事が片付けば、家族と一緒に夕ご飯が食べられる。もしくは同僚と一緒に焼き鳥を食いに行ってコミュニケーションがよくなる。

 僕はTPSは生産だけでなく販売であれ、事務であれ、どんな職種にでも導入できると思います。いままでの仕事のムダをなくすからです。ただ、人間は自分自身ではなかなかムダを見つけるのは難しい。友山さんみたいに厳しくチェックしてくれる人がいなければカイゼンはできません」

 小栗の言葉を引き取って友山はポイントを説明する。

 「トヨタ生産方式で『にんべん(人偏)のついた自働化』と言うのがあります。不良品をなくすシステムのことです。あれは異常の顕在化を意味している。仕事の遅れ、ムダを顕在化するのは誰だって嫌ですよ。どうしたって隠そうという方向に動く。だが、それをあえて外に出す。抵抗があって当たり前なんです。そしてジャスト・イン・タイムで仕事をするとはピンと糸が張り詰めた状態を言います。緊張した状態で異常を見つけ、問題に対処する。トヨタ生産システムでは問題が出て当たり前なんですよ。

 こうして、ふたつの原則で問題をあらわにして、それを直そうという企業風土を作る。ダメなところを隠すのではなく、外に出すことを私たちはやっている。そういう企業は健全なんです」