前回までのあらすじ

 「スーパーマーケットの時代が来る」──。米国の流通を視察して、そう確信した藤田俊雄は四井銀行の融資を受け、ヨーシュウ堂のチェーン展開を進めるが、人材確保が大きな課題だった。そんなときに大木将史がヨーシュウ堂にやってきた。テレビの将来性に着目した大木は、番組制作会社設立を計画。ヨーシュウ堂に出資を依頼するつもりだったが、幹部から入社を勧められ、俊雄と会う。

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 ──変わった男だ。というより非常に興味深い。

 俊雄は、社長室に戻りながら、先ほど会った大木将史のことを考えていた。

 人材が欲しいと、多くの社員を雇った。将史もそのうちの1人だ。田中が、「面白い男がやってきました。出版の取次店の社員ですが、その会社を辞めて独立したいというんです。それならうちに入ってから独立を考えたらどうかと入社を勧めたんです。その気になりましてね。社長、ぜひ会ってみてください」。

 「誰かの紹介なのかね?」

 「不動産屋の小松川透さんの紹介です。あの人に誰かいい人がいたら紹介してくれるようにお願いしていたんです」

 「小松川さんか……。私はあの人が勧める土地はあまり好きではない。あの人、山っ気がありすぎだからね」

 小松川は、ヨーシュウ堂の店舗用の土地を紹介してくれる不動産業者の1人だった。

 「まあ、社長、そう言わずに、会ってみてください。なかなか根性がある顔をしているんですよ」

 田中に勧められるままに会った。会った瞬間に何か縁を感じた。

 長野出身で養蚕業と言えば、相馬愛蔵ではないか。そんな外形的なことも縁を感じた要素の一つだが、自分とは全く違うタイプのように思えたのだ。

 俊雄は、今や500人以上の社員を雇う身だ。貞夫の時には考えられなかった規模だ。これからさらにもっと多くなっていく。

 俊雄の最大の悩みは、経営の規模も社員の数も、自分の想像する以上に早く、大きくなっていくことだ。

 俊雄は、自分の経営の才能に自信を持っているわけではない。どちらかというと商売下手であるし、事業を進めるに際しても慎重過ぎるほど慎重だ。

 リーダーとは、他者との約束を守り、広い視野を持ち、物事を決定し、その決定に責任を持つ人物だと言われる。その通りだと思う。ここからイメージするのは、1000人の兵の先頭に立ち、敵陣に飛び込んでいく姿ではないだろうか。

 俊雄は、自分はそういうタイプではないと思っている。貞夫は、強引なまでに人を引っ張るタイプだった。ヨーシュウ堂が大きくなるにつれて、貞夫のようなタイプのリーダーがいないか気付かないうちに探していた気がする。

 慎重な自分とコンビを組んでくれる強引な誰か……。自分とは異質なリーダーシップを持っている誰か……。社内を見渡してもそういうタイプのリーダーはいない。しかし将史の中に、それらしき萌芽を見たような気がしたのだ。──あの自信たっぷりな表情の男はヨーシュウ堂にはいない。これは楽しみが1つ増えた。

 「お客様の立場に立てば売り上げを伸ばすことができますだと? 生意気なことを言う奴だ」

 俊雄は思わず笑みをこぼした。

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