前回までのあらすじ

 米軍による大空襲は下町を中心に、東京の町を炎に包んだ。出征中の藤田俊雄の異父兄、貞夫が苦労の末に開いた洋品店にも火の手が迫り、母とみゑや貞夫は従業員とともに店を後にする。

 最初の夫に先立たれ、2人目の夫との間には幸せな生活を築けなかったとみゑ。商売に励んでも災難が襲う人生を振り返りながら、とみゑは空襲の中を必死に逃げるのだった。

「旧の日光街道に出たみたいだな。白鬚橋の方じゃない」

 貞夫が困惑している。道を間違えたようだ。炎を避けながら歩いているから、仕方がない。

「貞夫、このまま千住の方へ行きましょう」