設立から10年余りで世界で15億人が利用するようになったフェイスブック。SNS(交流サイト)の代表格として、人と人の関係を大きく変えた。尾原和啓氏は新しい人間関係が信用を生み出し、雇用も創出していると説く。

尾原和啓氏(おばら・かずひろ)
(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)
1970年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニーでNTTドコモのコンサルタントとして「iモード」の開発に携わる。リクルート、グーグル、楽天(執行役員)など転職11回。現在はインドネシアのバリ島に在住しながらテレワーキングで東京にあるネットベンチャーの役員を務める。著書に『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(ともにNHK出版)がある。

 利用者は世界で15億人。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の米フェイスブックは仮想空間に生まれた新たな国家と言える。そこで人々は緩やかに結びつき、新しい社会を形成しつつある。このサービスを生み出したマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)はいまだ、31歳。彼は世界をどう変えようとしているのか。

(写真=的野 弘路)
(写真=的野 弘路)

 こんにちは、尾原和啓です。この教室は第1回のグーグルから始まり、アマゾン・ドット・コム、アップルと進んできましたが、今回取り上げるのは世界最大のSNS、フェイスブックです。これでインターネットの世界をつかさどる「ビッグ4」が出そろうことになります。この4社を押さえておけば、ネット世界を構築している基本構造(私は「プラットフォーム」と呼んでいます)のあらましを理解してもらえると思います。

 フェイスブックとは何でしょう。簡単に言ってしまえば「お友達管理ツール」です。皆さんには「お友達」が何人いますか。ここで言う「お友達」とは、どこの誰だか知っているだけでなく、人間性を含めて信頼でき、いつでも、日々連絡を取り合っていて、今どこで何をしているかが大体分かる人のことを指します。さあ、何人くらいいるでしょう。 他人の日常を知る意味とは

 フェイスブックを使っている人は、使用前と使用後で比べてみてください。使用前、日々、連絡を取り合っていた「お友達」は20人くらいではなかったでしょうか。多い人でも100人くらいでしょう。ところがフェイスブックを使い始めたことで「お友達」の数が200人、1000人と10倍規模に増えたはずです。フェイスブックを使い始めたことでつながった、新しいお友達もいるでしょう。

 ネットは地球上にいる無数の人とつながっています。SNSには、その中から自分と同じ志向性の人、自分がつながりたい人を見つける機能があります。見つかるのは昔の同級生だけでなく、地球の裏側にいる自分と同じミュージシャンが好きな人かもしれません。

 このように薄い関係を管理していく手法を「シン・リレーション・マネジメント」と呼びます。普段会わない人だから違う刺激があり、刺激を与え合う中から、イノベーションが生まれます。

 これまでも人類は電話やファクシミリ、そして電子メールなどでつながっていたが、SNSはそれとは異なる新しい人間関係を生み出すという。

<b>facebook<br /> フェイスブック<br />  米ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏(写真上)が2004年に仲間と共に設立。当初は学生に限定したサービスだったが、2006年から13歳以上のすべての人が使えるようになった。無料で利用できるが、実名登録制となっている。2012年に米ナスダックに上場、同年には写真共有アプリ「インスタグラム」を買収して子会社にしている。</b>(写真=AP/アフロ)
facebook
フェイスブック
米ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグ氏(写真上)が2004年に仲間と共に設立。当初は学生に限定したサービスだったが、2006年から13歳以上のすべての人が使えるようになった。無料で利用できるが、実名登録制となっている。2012年に米ナスダックに上場、同年には写真共有アプリ「インスタグラム」を買収して子会社にしている。
(写真=AP/アフロ)

 フェイスブックでつながっている友人とは、数年ぶりに会っても、久しぶりに会った気がしません。彼が昨日、どこで誰と飲んでいたかを知っているからです。

 昨日のランチは何を食べたか。どんなニュースを見て、何を思ったか。子供が何歳になったとか。フェイスブックへのとりとめのない書き込みを通じて、私は彼の人となり、暮らしぶりを知ることができます。用事のやりとりしかしない電子メールでは、こうした情報は伝わりません。数年ぶりに会うと、「今まで、どうしてた?」という具合になります。

 人となりが分かることに、何の意味があるのでしょうか。ネット時代を生きていくうえで、これは大事な要素になります。人となりが分かることで、私は彼を信頼することができるようになります。彼の職業もスキルもよく知っていますから「この仕事は彼に頼もう」と考えるわけです。

 つまりSNSは、ネット空間で信用を創造しているのです。この社会的関係の中から生まれる信用を「ソーシャルキャピタル」と呼びます。これまで我々が判断の基準にしてきたのは、その人が働いている会社、会社での役職、出身校、出身地といった誰かからのお墨付きでした。つまり「ラベリングキャピタル(レッテルに基づく信用)」と言えます。しかしネット時代の信用は、ラベリングキャピタルからソーシャルキャピタルへと徐々に移っていくと言えます。

 その理由を説明しましょう。例えば、大きな会社で働いている人の中には、いい人もいますが悪い人もいます。学歴では測れないスキルもありますし、出身地で人間性が分かるわけではありません。今まではラベリングキャピタルしか材料がなかったから、それで信用できるかどうかを判断せざるを得ませんでした。

 一方、ソーシャルキャピタルは、その人がどんな人と付き合っているか。どんな日常生活、どんな社会生活を送っているかが分かります。自分が信頼している人がフェイスブックで「いいね」を押している人なら、その人を信用してもいいと判断できます。

 フェイスブックのザッカーバーグCEOは「世界をもっと開けた、つながった場所に」と言っています。多くの人がつながれば、ソーシャルキャピタルが増え、世界は今より豊かで住みよい場所になる、というのが彼の信念です。フェイスブックのサービスを通信事情の悪い新興国でも使えるようにするために大きな投資をするなど、目先の利益を上げることより、地球規模で利用者を増やすことに執念を燃やしています。

信用が社会全体のコストを下げる

 ソーシャルキャピタルをベースに、近年急速な勢いで発展しているのが「シェアリングエコノミー(共有する経済)」だ。

 スマートフォンを使った配車サービスの「Uber(ウーバー)」は、アマチュアのドライバーがお客を乗せます。プロが運転するタクシーに比べて「ちょっと怖いな」と思うでしょう。しかし、ウーバーの画面には利用者が書き込んだ、ドライバーの評価があります。「とても安全な運転でした」「対応も親切でした」という書き込みがたくさんあれば、「乗ってもいいかな」と思いますよね。この信用がソーシャルキャピタルです。

 宿泊アプリの「Airbnb(エアービーアンドビー)」も同じです。「きれいな部屋でした」「家主さんはいい人でした」という利用者の書き込みが、信用の土台になります。

 逆にウーバーで「乱暴な運転で怖かった」と書かれれば、新しいお客さんから選ばれなくなります。「部屋が汚くてがっかり」も同じです。そんな書き込みをされたら商売になりませんから、サービスを提供する側は一生懸命になります。

 国や自治体が高いコストをかけて免許制度を作らなくても、信用を財産に換えるソーシャルキャピタルは口コミ機能で悪貨を駆逐することができます。目に見えなかった信用がネットの力で可視化されたわけです。利用者とサービス提供者が共にハッピーになり、社会全体のコストは大きく下がります。

 ラベリングキャピタルからソーシャルキャピタルへのシフトは、我々の働き方にも大きな変化を及ぼす。

 例えば、あるデザイナーが友人に頼まれてちょっとしたデザインを無料で請け負います。友人は、お金を払う代わりに「ありがとう」ボタンを押します。別の友人からもデザインの依頼が来て「ありがとう」ポイントがたまっていきます。するとネット社会で「この人は、結構いいデザイナーらしいぞ」というソーシャルキャピタルがたまり、やがて10万円でデザインを頼む企業が出てくるかもしれないのです。

 こうやって頼まれた仕事をちょこちょこやっているうちに、それだけで食べていけるようになる人が既に現れています。デザイナーだけでなく、コピーライターやプログラマー、そして翻訳家などにも広がっています。こうした働き方を、クラウド(群衆)と業務委託(ソーシング)を組み合わせて「クラウドソーシング」と呼んでいます。

 ちょこちょこ仕事の評判が良く、さらにソーシャルキャピタルがたまっていけば、ある日、大企業から1件1000万円の大きな仕事が来るかもしれません。

 世界で15億人が原則実名で登録しているフェイスブックは、ソーシャルキャピタルの巨大なプラットフォームでもある。

 スターバックスのお店で、スマホやパソコンを無料でWi-Fiにつなぐ時、自分のIDとパスワードを登録するほかに、もう一つの方法を使っている方も多いと思います。フェイスブックのIDなどでもログインできるのです。スターバックスが「フェイスブックの利用者なら、いちいちパスワードを入れなくても、うちのWi-Fiを使ってもらって結構ですよ」と信用を供与しているわけです。

 スターバックスだけではありません。ネット上ではフェイスブックのIDでログインできるサービスがどんどん増えています。これまで、ネットで新しいサービスを使う時には、いちいちIDとパスワードを設定しなくてはなりませんでしたが、フェイスブックのIDを持っていれば、自由に出入りできるサイトが増えています。つまりフェイスブックのIDがソーシャルキャピタルとなり、それが仮想空間のパスポートになりつつあるのです。

SNSはネット時代のプラットフォーム

 一方で、ネットに実名を出すことに抵抗を覚える人も少なくない。相互監視状態になるネットで「いい人」を演じ続けることに疲れ、フェイスブックから離れる人もいる。

 「フェイスブック疲れ」を起こしているのは年配の方だけではありません。若者の中にも「もっとネットで本音を語りたい」という人たちがいます。そんな若者の間ではやっているのが「スナップチャット」という新しいサービスです。

 1秒から10秒の間で閲覧時間を設定して写真や動画をやり取りするサービスで、閲覧時間を過ぎると消えてしまうのがミソです。フェイスブックのタイムラインのように、記録として残らないので、感じたまま、思ったままの情報を気軽にやり取りできます。

 一方、エリートたちは別のSNS「LinkedIn(リンクトイン)」で、フェイスブックよりも密につながっています。自分の職歴などを細かく書き込むことができるリンクトインはヘッドハンティングのツールにもなっています。

 いずれにせよSNSはネット時代の人間関係のプラットフォームです。これからは企業内や地域での人間関係が薄まる分、ここで緩やかにつながることが重要になります。ソーシャルキャピタルがたまっていけば、ラベリングに縛られることなく、自由に生きられるのです。

=文中敬称略
構成=大西 康之


 1930年に経済学者のジョン・メイナード・ケインズが書いた「我が孫たちの経済的可能性」という小論にこんな一節がある。「これからの年月には、『技術的失業』という言葉を何度となく耳にすることだろう。これは、労働力の新たな使途を発見しうる速さを、労働力の使用を節減する手段の発見が凌駕するために生じる失業を指す」。
 IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の発達で、人間の仕事がなくなる未来の世界を見事に言い当てている。世界中で起き始めている新しい種類の長期的景気停滞の原因を、著者ジェレミー・リフキン氏はこう説明する。
 「財やサービスを生産する限界費用が様々な部門で次々とゼロに近づくなか、利益は縮小し、GDP(国内総生産)は減少に転じ始めている。多くの財やサービスがほぼ無料になるにつれ、これまたGDPにブレーキをかける。(中略)多くの消費者が自動車や自転車といったものに対し、使用時間だけお金を払うことを好むようになりつつあり、これがまたGDP減少につながる」
 現に、この20年で通信コストは劇的に下がり、我々は毎日、インターネットを安価に使っている。IoTが普及すれば、あらゆる経済活動で同じことが起こり、「資本主義が衰退して共有型経済が台頭する」と著者は予測する。
 著者は独メルケル首相のアドバイザーを務める文明評論家で「ドイツはスマートでグリーンなIoTインフラへと急速に移行しつつある」と指摘する。一方、「一握りの垂直統合型の巨大な電力公益企業が途方もない影響力を持つ日本は、過去との決別を恐れ、確固たる未来像を抱けずにいる」と警鐘を鳴らす。
日経ビジネス2016年3月21日号 66~69ページより目次