東日本大震災以降、強い風が吹く沖合での風力発電に期待が集まっている。巨大な風車をいかに海面に浮かせるかに企業は知恵を絞る。造船や建設の技術は発電コストの低減に生きそうだ。

<b>2016年7月に兵庫県洲本市沖から福島沖を目指す、アドバンストスパー型の浮体式洋上風力発電設備</b>(写真=朝日新聞社)
2016年7月に兵庫県洲本市沖から福島沖を目指す、アドバンストスパー型の浮体式洋上風力発電設備(写真=朝日新聞社)

 都市部を離れて海岸線をドライブしていると白い巨大風車をよく目にするだろう。経済産業省の見通しによると、総発電量に占める風力発電の比率は現状の0.5%から2030年には1.7%に伸びるという。風力は夜間でも稼働可能という強みを持ち、エネルギーの変換効率も太陽光の4倍程度と言われている。しかも北海道や東北、九州では年間を通して強い風も吹く。

2040年には洋上が風力の4割強に
●風力発電の導入目標(国内)
2040年には洋上が風力の4割強に<br />●風力発電の導入目標(国内)
出所:日本風力発電協会
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風力発電導入量の国際比較
●国土が狭い日本は後進国
風力発電導入量の国際比較<br />●国土が狭い日本は後進国
出所:Global Wind Energy Council
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 だが、電力会社に接続する風力発電設備(出力10キロワット以上)は既に2000基以上存在し、騒音や景観などの問題をクリアして建てられる立地は減ってきた。そうした中、風力の比率を今後引き上げていく上で鍵を握りそうなのが、洋上という選択肢だ。

 水深が50m程度までの海域ならば、海底に基盤工事を施し、風車のタワー(支柱)を固定する「着床式」(着底式)の設備を建てられる。洋上風力で20年以上前から世界をリードしている欧州でも着床式が用いられてきた。海底油田の開発実績が豊富な欧州勢にとって、この方式での工事は手慣れたものだ。

 一方で日本には、海岸から数km離れても水深は50m以下といったエリアは少ない。国内でも2000年以降に10基以上の着床式が作られ、一部は運転を開始しているが、大半は岸から2km以内にある。

 そこで注目を集めているのが、タワーを海底に固定しない「浮体式」。これなら、水深数百mでも設備を置ける。

 浮体式の設備は、建築物である陸上風車と異なって法律上は船舶(非自航船)扱い。造船ドックや波が静かな海域で組み立て、運転予定の海までタグボートが曳航する。複数の錨につながれた風車は、風が吹く限り稼働し続け、海底ケーブルを通じて送電する。環境省の調べでは、日本における浮体式の潜在的な発電量は陸上と着床式の合計の2倍以上だ。

<b>沖合に風速8m超えの海が広がる(高度70m)。NEDO提供の風況マップ</b>
沖合に風速8m超えの海が広がる(高度70m)。NEDO提供の風況マップ
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 “船舶”で発電するメリットはいくつもある。まず沖合の方が強い風を得やすい。九州大学大学院工学研究院の宇都宮智昭教授は「現状、国内では風速6m以上吹く立地を確保するのも困難になってきているが、海に行けば8m以上の海域は珍しくない」と話す。風が持つ運動エネルギーは風速の3乗に比例する。この2mの違いは、風車を動かすエネルギーに換算すると約2.4倍の差につながる。

 しかも沖合は騒音問題とは無縁だ。環境アセスメントは陸上風力と同様に必須だが、風車を大型化しやすい。巨大なブレード(翼)を用いれば、効率的に風を受けられる。

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