人件費の上昇が著しい中国で、飲食店向きの配膳ロボットが既に活躍している。完璧さを求める日本企業と異なり、機能やデザインも割り切って導入している。日本の電通大の技術を取り入れ、自己位置の特定技術も実装した新世代ロボットも登場した。

周囲の障害物をセンサーで検知
●中国で活躍するレストラン向け配膳ロボット
(写真=パンゴリンロボット提供)
SLAMとは
部屋の形などの地図情報が事前になくとも、カメラやLIDAR(レーザーレーダー)などの情報からロボットが自動的に周辺環境の地図を作り上げ(写真下)、同時に自己の位置も特定できる技術。「simultaneouslocalization and mapping」の頭文字を取ってSLAMと呼ぶ。自律移動型のロボットの場合、未知の環境や障害物に出くわす可能性が高いため、要となる技術と言える。

 「サービスロボットは日本よりも中国の方が先行して普及」──。そんなシナリオが現実になるかもしれない。

 レストランで配膳作業などを行うロボットを累計1000台以上も出荷している中国企業があることをご存じだろうか。中国全土200以上の都市の飲食店に配膳ロボットを提供するパンゴリンロボット(昆山穿山甲机器人、本社は江蘇省崑山市)だ。年間2万台ものロボット生産能力を持つ。

 同社CEO(最高経営責任者)の宋育剛氏は「当社は中国のレストラン向けロボットメーカーで最大手。市場シェアは70%だ」と胸を張る。

 パンゴリンは2004年に設立した。創業直後は一時的に産業用ロボットも手掛けていたが、その後、すぐにサービスロボットに特化し、成長してきた。レストラン向け以外にも、銀行や小売店での受付業務などに向けたサービスロボット、ホテルなどに向けた搬送ロボット、家庭向けロボットなど幅広く手掛ける。

 同社のレストラン向けロボットの特徴は、複雑な機能を廃し、必要最小限の機能に絞り込んでいる点だ。外観こそ人型のような姿だが、料理を載せる配膳台を持つアームは可動式ではなく固定。この配膳台からの料理の上げ下げは、ロボット自身ではなくレストランの従業員や来店客などが手動で行う。

 ロボットはレストラン内で事前に決められた経路を巡回し、来店客の席のそばまで料理を搬送する役割をする。レストラン内でより親しみやすくするため、搬送ロボットに人型の顔や手が付いたようなイメージである。

 同社CTO(最高技術責任者)の丁強松氏は「日本企業はロボットにも完璧さを求めがちだが、我々はサービスロボットを実際に現場に投入し、役立てることを優先する。当社のロボットは中国各地のレストランで既に2年以上運用しているが、移動速度もあえて遅めに設定してあることもあり、事故は1件も発生していない」と語る。

 現在のパンゴリンのロボットの移動の仕組みは、工場などで使われる多くのAGV(無人搬送機)と同じく、基本的に磁気テープによる誘導である。レストラン内の通路の床面に敷設したテープに沿って、決められた経路を回る。

 これに対し、近日投入予定の新型ロボット「Amy(艾米)」では、自動的に屋内地図を作製し、自己の位置を特定するSLAM機能を搭載した。ロボットの足元に搭載した北陽電機(大阪市)製の2次元LIDAR(レーザー光線を使って周囲の障害物との距離を測る技術)により、レストラン内の地図を自動的に構築。床面のテープなどは不要で、ガイドなしで走行できるようにした。店舗内のテーブルのレイアウト変更にも柔軟に対応しやすくなる。

 飲食店では営業終了後などに床面を水で清掃することが多いため、「床に敷設した磁気テープが剝がれたり、破損したりする問題があった」(丁氏)。こうした問題を解決するため、同社は新型ロボットにSLAMの導入を決めた。

 ガイドなしでの自己位置特定の方法については、LIDARによるSLAM以外にも複数の手段をパンゴリンは検討した。無線LANによる方式、UWB(超広帯域レーダー)による方式、天井に設置したマーカーをカメラで読み取る方式などである。

 「無線LANやUWBによるものは、レストラン内の通路を移動する用途では自己位置特定の精度が不十分だった。天井にマーカーを設置するタイプは、磁気テープと同様、設置工事が必要となるのがネック。このため最終的にLIDARによるSLAMを選択した」(丁氏)という。

 AmyのSLAM機能は、ROS(ロボット向けの基盤ソフト)を利用した。ハードウエアとしてはラズベリーパイ(シングルボードコンピューターの一種)ベースのボードを内部に搭載しており、この上でROSを動作させている。

 障害物検知用に腕の先端と膝の付近に複数の超音波センサーを搭載する。胸の部分には、配膳のための各種設定などを行うタッチパネルを備える。この部分のユーザーインターフェースはアンドロイドOSで構築してある。なお、SLAM機能はレストラン向けのAmyだけでなく、受付業務などに向けたサービスロボット「Alice」や家庭向けロボット「Snowman」にも同様に搭載している。