(前編から読む)
辻:あなたはシリコンバレーの起業家としても、ベンチャーキャピタリストとしても、大成功したCEOを大勢見てきていますよね。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグのような傑出したCEOは、他のリーダーとどこがどう違うのでしょうか?
ホロウィッツ:ザッカーバーグも初めから世界最高のCEOの一人だったわけじゃありませんよ。昔、私はザッカーバーグにこう相談されたことがあります。
「経営幹部を解雇しなければならないかもしれない。実はこれで三度目になる。取締役会の信頼を失うんじゃないかと心配しているんだ」

シリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラルパートナー。投資先には、エアビーアンドビー、ギットハブ、フェイスブック、ツイッターなどがある。著書に『HARD THINGS』(日経BP社)。(写真:的野弘路、以下同)
私はこう答えました。
「マーク、そんなことを心配する必要はない。間違った人間を採用していたのなら、解雇するのが取締役会の義務だ」
間違った人物を採用したのはミスですが、そのまま解雇しないのは会社の利益に対して、さらに深刻なミスとなります。ともかく、最初のころのザッカーバーグもそんな具合でした。
辻:ザッカーバーグも、最初から偉大なリーダーというわけではなかったということですか?
ホロウィッツ:フェイスブックはユーザーが1億人になったあたりで、成長が完全にストップしてしまったんです。その理由について詳しくは触れませんが、「このあたりの規模がソーシャルメディアの限界なんだ」など、いろいろ言われました。しかし、当時大きな問題だったのは、ユーザーがフェイスブックにログインするのに10秒近くかかっていたことでした。ユーザーはこれにうんざりしていたんです。
私はマーク(ザッカーバーグ)にそのことを指摘したんです。結局フェイスブックは、新しいエンジニアチームに対処させて、この問題を克服しました。1億人が日々使っているデータベースを改良するのは大変なことです。それでもザッカーバーグは、この高いハードルも乗り越えたんですよ。
失敗を通して学ぶことは誰にでもできる

マネーフォワード代表取締役社長CEO。2001年京都大学農学部卒業、2011年ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年株式会社マネーフォワード設立。
辻:つまり、CEOも学んで成長できるということですか?
ホロウィッツ:誰だって、最初からすごい能力を発揮できるものではありません。たとえば新しい職に就いたら、状況を理解するのに時間が必要です。2カ月くらいはかかるものですよね。一定の時間はかかるんです。それに、会社というのはそれぞれ独特です。マーク・ザッカーバーグはフェイスブックのCEOとしてこの上なく優秀ですが、彼がまったく別種の会社でも同じように優れた経営ができたかどうかは別の話です。
CEOになったばかりのときは、知らないことばかりで、いったいどうやって経営ができるのだろうかと恐ろしくなるかもしれません。それでも、学ぶことはできます。非常に辛い経験を通して、学ぶことになるかもしれませんが。
その点でインテルの元CEO、アンディ・グローブが書いた『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、CEOにとってすばらしい教科書です。私はCEOになった当時、この本を繰り返し読みました。それでも、たくさんの失敗を避けられませんでした。状況はいつも急速に変化していて、予測できないことばかり起きたのです。
辻:『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、私も繰り返し読みました。1対1の面談(ワン・オン・ワン)や社員とのコミュニケーションの重要性など、これほど具体的に経営の核心を教えてくれる本は初めてでした。
ホロウィッツ:アンディ・グローブを知らない者はシリコンバレーにはいません。危機にあったインテルを立て直して、現在のような巨大企業にしたのですから、もちろん伝説的経営者です。しかしこの本は1983年に書かれたものの、その後長く埋もれた状態にありました。あなたが言うとおり、1対1の面談の重要性など、実際に経営に当たったものでなければ知り得ない指摘が満載されている本なのですが。
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