カード型電卓、防水機能付き携帯電話、G-SHOCK……。カシオはユニークな商品を生み出し、新たな市場を開拓することで成長してきた。だが、和宏社長が受け継いだカシオは既に“還暦”を迎え、様々な場所に痛みを抱えるようになっていた。95年に世界初の液晶画面付き製品を投入し、市場を切り開いたはずのコンパクトデジカメは赤字に転落。18年5月には撤退を余儀なくされた。ピーク時に6000億円を超えていた連結売上高はここ数年、3000億円台で推移する。カシオらしい新商品を生み出せていないことから、業績は時計頼みの傾向が強まっている。

●カシオ計算機の売り上げ構成 (2018年3月期)
和宏社長の目には、その原因が見えていた。長年にわたって4兄弟という「カリスマ」が君臨したカシオでは、トップダウンの傾向が強い。上意下達の縦割りが強化され、社員一人ひとりが会社全体を見て自分の頭で考える力を失ってしまったのだ。
ベースにあったのは、長年続いてきた商品ごとの事業部制だ。事業部は、商品企画から開発、生産まで様々な権限と機能を持っていた。事業部をまたいだ技術者の異動はほとんどなく、カメラはカメラだけ、楽器は楽器だけをひたすら手掛ける「部分最適がはびこっていた」(和宏社長)。
連写機能を医療向けに活用
硬直的な組織を打破し、カシオが持つ様々な技術資産と人材を融合させれば、新しい何かが必ず生まれるはずだ──。その確信を和宏社長に持たせているのが、2019年春にも発売する医療用カメラと、画像解析サービスだ。

「カシャ」。皮膚表面のほくろにレンズを当ててシャッターを一度押すだけで、隠れたシミを見つけ出す紫外線画像など、3パターンの写真が一気に撮れる。忙しい皮膚科医が患部を撮影する際に、モードを何度も手動で変えずに済むよう工夫した医療用カメラは、コンパクトデジカメ向けに開発した連写機能を転用している。
19年春のカメラ発売に先駆けて公開した画像解析ツールは、血管を強調するなどして皮膚がんを診断しやすくする機能を搭載している。もともと、スナップ写真などの画像を水彩画調などに変換して遊ぶ技術を活用したものだ。
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