的を絞り、狙いを定める

 「ヒロセ電機は自動車向けでは弱小で後発だ。的を絞る必要がある」(岡野氏)。そこで狙いを定めたのが、電池やパワートレインといったこれからのEV時代に需要が広がる新領域。CATLの電池でも求められたように、薄型化・小型化のニーズを捉えることで、新たな顧客を獲得する戦略だ。

 CATLからの受注もあって、ヒロセ電機は今、手ごたえを十分に感じているようだ。今後、自動車メーカーの顧客が増えるとみて、17年度は159億円、18年度も160億円の設備投資を予定。時間がかかる自動車向けコネクターの試験をこなすために、試験場を一関工場内に新設し、新製品をタイムリーに出せるように宮古工場内の金型設備も増強した。

<span class="fontBold">岩手県一関市に新設したコネクターの試験場。高温や振動、粉じんなどの環境下でコネクターが作動するか検証している</span>
岩手県一関市に新設したコネクターの試験場。高温や振動、粉じんなどの環境下でコネクターが作動するか検証している

 ゴールドマン・サックス証券投資調査部門の高山大樹マネージング・ディレクターは、「技術力が求められる高収益製品に特化するヒロセ電機の戦略は株式市場でも高く評価されてきた。スマホ向けコネクターの需要に減速リスクがある中で、多額の投資をしている車載分野をいかに早く収益の柱にできるかが勝負となる」と指摘する。

 様々な製品で力を発揮してきたヒロセ電機の「すぐやる文化」。品質や安全性で要求水準の高い自動車分野でも商機を広げることができれば、同社の製品に対する信頼性はこれまで以上に高まるはず。既存顧客との結びつきを強める上でも、自動車向けの事業領域の拡大はヒロセ電機にとって欠かせない一手となる。

INTERVIEW
石井和徳社長に聞く
モノづくりの力を永遠に高める
(写真=北山 宏一)
(写真=北山 宏一)

 創業者が「ファブレス(工場を持たない)経営」を打ち出していたこともあって、当社は「ファブレス」のイメージが強い。できるだけ固定資産を持たない考え方は今も大事にしているが、そのイメージが自社ではモノづくりを手掛けていないという誤解を招いているように思う。

 ヒロセ電機は付加価値の高いプロダクトで勝負する企業だ。岩手県や福島県にある自社の工場は、そうした製品を作り出す「マザー工場」であり、協力工場が同じ仕組みを展開することで、機動的に生産する体制を整えている。

 自動車向けのコネクターを生産するようになって、特に新しい顧客から「ファブレス」のイメージで語られることが多くなった。だが、実際にはヒロセ電機にはモノづくりの力があるし、その力を永遠に高めていく必要があると考えている。

 新たに注力している自動車分野は、自動運転やEV(電気自動車)の普及、IT(情報技術)化など大きな転換点を迎えている。電動部分が増えて、コネクターの適用範囲が広がるし、ニーズもヒロセ電機がスマホなどの経験から得意としている小型化の方へ向いている。

 この追い風を生かして、現在は20%に満たない自動車分野の売上高比率を2021年までに30%まで高める目標を掲げている。

 足元を見ると、中国の車載電池大手、寧徳時代新能源科技(CATL)への導入など良い動きもある。ただ、1年に何度もコンペに挑むチャンスがあるスマホと違い、自動車分野は一度失注すると、次の新車のモデルチェンジ期までチャンスが巡ってこない。数年にわたって受注機会を失いかねない。

 だから社内では自信過剰にならず、適度に恐れを抱いて自社や自社製品を厳しい目線で客観視することも忘れないようにしようと呼びかけている。(談)