高利益率の秘密

利益率は高く、5年平均で26%
●売上高と経常利益率の推移
利益率は高く、5年平均で26%<br />●売上高と経常利益率の推移
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 ただ、ヒロセ電機が特異なのは成長力というより、収益力が際立って高いところにある。ここ5年の経常利益率の平均は26%。自己資本比率は約90%。創業者の後を継いで71年から30年近く同社を率いた故・酒井秀樹氏が徹底した「効率経営」が強さの源泉だ。

 その考え方は今もぶれていない。2012年から社長を務める石井和徳氏は「経常利益率が20%を切るなんて許されない。30%の利益率を目指している」と言い切る。

 高利益率を生み出すのが新製品主義だ。売上高に占める新製品の割合は30%超。付加価値の高い新製品を送り出しながら、コモディティー化して価格競争に陥り、一定の利益が取れなくなった分野からは潔く撤退する。

 1年に投入する新製品は100~150種類。自動車など用途別に4つに分かれた「事業部」がそれぞれの顧客ニーズに合わせたコネクターを素早く送り出す。

 かゆいところに手が届くような仕様が顧客を引き寄せる。例えば、16年に製品化した「ゼロスクリュー端子台EF2シリーズ」。ビルの配電盤をつなぐ端子台として使われるが、ケーブルをカチリとはめ込むようにしたのが特徴だ。従来はネジをドライバーで回して止めたり、定期的にゆるみがないか点検をしたりする必要があったが、その手間を省いた。一般的な端子台よりも高価だが、竹中工務店や鹿島など大手ゼネコンの建築現場での導入が相次いでいる。

 そんなヒロセ電機がこれからの収益の柱に位置づけるのが自動車向けだ。同社の屋台骨を支えてきたスマホ向けは市場が成熟化。上の業績グラフにあるようにヒロセ電機の売上高も頭打ちになっている。

 規模の拡大だけが同社が目指す方向ではないが、市場が成熟化すれば、顧客からの値下げ要求は強まり、競合との価格競争も激しくなる。これでは同社の強さの源泉である高利益率も維持できない。電動化が進み、搭載する電子機器が増える自動車は、コネクターの需要を掘り起こす格好の分野だ。

 もっとも、人命を預かる自動車は採用する部品に対する要求水準が高く、新参者がすぐに入り込めるような領域ではない。それでもヒロセ電機はその壁を少しずつ乗り越えてきた。09年3月期に連結売上高の7%にすぎなかった自動車向けを18年3月期は18%に高めた。参入障壁の高い自動車向けを開拓できた要因は何だったのか。

自動車向けの売上比率が伸びている
●用途別の売り上げ構成比
自動車向けの売上比率が伸びている<br />●用途別の売り上げ構成比

 ヒロセ電機が自動車向けでまず目をつけたのは、車載用のラジオに使うアンテナ向けコネクターだった。携帯電話の基地局向け同軸コネクターで実績があり、その技術がアンテナと共通のものだったからだ。 

 まずは、独自のアンテナ用コネクターを試作し、1990年代から自動車業界の顧客を開拓するために展示会に積極的に出展し、顧客の反応を探った。

 そうした場で知り合ったのが大手自動車メーカーの車両企画部門の担当者。話をするうちに「ラジオ用のアンテナに接続しているコネクターがよく抜けて困る」ことを知った。アンテナメーカーが自作したコネクターはイヤホンジャックのような形状で抜けやすい構造だった。

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