全2363文字

 製品開発の出発点は、常に利用者のぼやきを聞くこと。現場に赴き、ビデオを撮り、「こんな作業がつらい」といった声をかき集め、新商品のアイデアにする。働く人の苦労を取り除くために、事業を通じて「義理と人情を貫く」のが同社の経営哲学。「ものづくりは演歌だ」という社内標語を掲げている。

 農機の国内出荷額は3000億円程度。トラクターやコンバインといった平坦で広大な農地で使う機器が中心で、クボタやヤンマーなど大手4社が市場シェアの8割を握る。一方、キャニコムが手掛ける草刈り機や運搬機は、狭い道や傾斜のある土地を狙うニッチ製品。大手の参入を避けられているという。

 キャニコムはニッチ戦略を徹底し、土木建設や畜産向けに使う運搬機なども開発し、今では約200種類の製品を取りそろえる。

 本社横に併設された工場では多品種少量生産を追求。きつい傾斜に対応するなど特殊な構造の製品が多いので、部品は汎用品を使いにくい。エンジンとタイヤ以外は基本的に自社生産するため、製造コストは高くなる。

 例えば、「草刈機まさお」シリーズの上位機種は約150万円。「海外メーカーの競合商品の2倍の値段」(包行会長)という。しかし、取っ手の配置や走行スピードなど、利用者のかゆいところに手が届くような製品設計が、支持を集めている。交換部品は午後3時までの注文なら国内向けは即日配送するという手厚いアフターサービス体制も、顧客満足度の向上につながっている。

「ネーミングの魔術師」を自称するキャニコムの包行均会長(写真=菅 敏一)

 さらに、同社が競争力を高めるために近年力を注ぐのが「DNB戦略」。D=デザイン、N=ネーミング、B=ブランドをそれぞれ意味する。「中小企業はこれまで技術を磨いてばかりで、上手に商品を売る工夫が欠けていた」という包行会長の問題意識が背景にある。

 同社は中小企業にもかかわらず、デザイナーを8人雇い、毎年少しずつ農機の外観を変更している。現在は「フォーミュラ・ワン(F1)」の車両にも似た赤と黄色の配色を多くの機器で用いる。

目標は100カ国・100億円

 キャニコムは国内を中心に業績を拡大してきたが、成長のけん引役としては海外に期待している。主力の草刈り機は、国内では草が生い茂る春夏が需要期で、秋冬は販売が落ち込む。一方、熱帯や南半球では、日本の閑散期に販売を伸ばすことができるからだ。

 2005年、米国に本格参入。大型草刈り機「ブッシュ(草むら)カッタージョージ」などを展開。10年には中国でも現地生産を開始した。

 海外展開では、現地化を徹底する。例えば、熱帯の東南アジアでは農業向けに年間300日程度は草刈り機が稼働。草の種類も、燃料となる軽油の品質にもばらつきがある。キャニコムでは、営業社員と設計者、デザイン担当者の3人を海外に派遣し、設計から受注までを現地でこなす。出張期間は1カ月以上になることも珍しくないという。

 既に46カ国に進出し、売上高に占める海外比率は4割を超す。しかし、目標はさらに大きく「100カ国進出が夢」と包行会長は語る。目指す売上高は100億円。現在、本格進出に向け動いているのが、広大なアフリカ市場だ。本社では身長2mを超すセネガル国籍の社員を雇い、現地の調査に力を入れる。

 アフリカの人々を笑わせるネーミングも、きっと包行会長の頭の中には用意されているのだろう。