同じ年の末、山梨県の笹子トンネルで、9人が死亡する天井板崩落事故が発生。インフラの老朽化が注目を浴びる。特に高度経済成長期に急ピッチで建造が進んだ道路や橋などは、2020〜30年に老朽化のピークを迎えるとみられている。国土交通省によると、現状でもインフラのメンテナンスの市場規模は約5兆円。世界の推定市場規模は200兆円に上る。

 社会的な需要は大きい。基礎理論も試作品もそろった。しかし、サビ塗料の受注はなかなか決まらなかった。「学会で基礎データを披露すれば興味を抱く人は多いが、採用してくれる企業が出てこなかった」。技術系ベンチャーが陥りがちな罠に、京都マテリアルズもはまっていた。塗料を何層塗り重ねる必要があるかなど、顧客の状況に応じて施工の方法や費用をはじき出すために必要な、営業用のデータが不足していたからだ。

 そこで「すぐにでも改善策を必要としている顧客にまずは注力した」(山下社長)。離島の送電設備など、インフラが不安定で、かつ海水や風による影響で腐食の進みやすい施設に営業リソースを集中。徐々に電力会社などから試験施工を獲得していった。

開発に特化、提携でシナジー

鉄鋼メーカー、大学の研究職を経て京都マテリアルズを創業した山下社長(写真=山本 さとる)

 山下社長の故郷の京都で創業したことも、ハードルを乗り越えるのに役立った。塗料メーカーが多い関西地方には、受託専業の工場も多い。こうした工場を利用して完全受注生産とすることで、在庫を持つ必要がなくなった。

 電力会社での評価試験が公表されると、化学メーカーや商社から提携の申し出が舞い込んできた。商機であるインフラの老朽化、その改修のピークに間に合わせるには「大手の販路や営業力を生かしたほうが立ち上がりが早い」と山下社長は判断。塗料事業とのかかわりが深い化学商社大手、長瀬産業と独占ライセンス契約を16年に締結。長瀬産業に製造・販売を委託し、京都マテリアルズは開発に特化する体制となった。京都大学のインキュベーションセンターに居を構え、従業員5人が塗料の研究に取り組む。

 現在の開発方針は、パティーナロックを様々な顧客の事業環境に適応させることだ。昨年末には、関西電力からの要請で、三菱日立パワーシステムズ、長瀬産業と火力発電所向けの改良品を共同開発した。排ガスの処理で発生する硫酸により、火力発電所では腐食が進みやすい。添加する金属イオンの組成を変えるなどして、酸性環境でも防錆機能を維持できるようにした。

 目下の課題は、海上インフラ向けの改良品の開発だ。水面は酸化の原因となる水と酸素が際限なく供給される。防錆においてハードルが特に高い環境だ。この課題を乗り越えることができれば、京都マテリアルズのさらに大きな飛躍が見えてきそうだ。