布団乾燥機ではホースとマットを取り除き収納を楽にした

 「ホースとマットを無くせば、ヒット商品になるのでは」。こんな社内のアイデアから生まれたのが、ドライヤーのような送風口を直接布団に差し込む製品。もっとも、従来の電熱線ヒーターを使えば、布団が発火する可能性もある。そこで、送風ファンが止まっても過熱しないヒーターを他社から調達して商品化にこぎ着けた。

 発売するや否や、「収納が圧倒的に楽」と口コミが広がり大ヒット商品となる。他社も同様の製品で追随し、年間40万台だった布団乾燥機の国内市場が今では100万台まで拡大した。

 炊飯器のみならず、ホットプレート、オーブントースターでもトップシェアを持つ同社。業績は好調だが、不安要素への対応も必要になっている。

 主力の炊飯器では、訪日客による爆買いが一服したことに加え、人口減で国内市場は縮小傾向にある。日本電機工業会によると国内出荷台数は18年見込みで545万台。直近3年間で40万台弱も減少している。

 次の100年に向けて象印が成長を続けるには、コメを主食とする中国や台湾市場でいかに伸びるかにかかっている。象印は台湾では各国の有力メーカーを抑えてシェア首位。03年に本格進出した中国は、炊飯器の普及率は高いものの、現地ブランドの製品が市場を占めている。現地では高価格ゾーンとなる象印の商品は、シェアはまだ小さいが、前期の売上高が114億円とこの5年で3.5倍に拡大した。

「炊飯達人」をオフィスに派遣

 好調な海外事業を支えるのも割り切り戦略だ。中国ではブランド知名度を上げるべく、多くの日系メーカーはテレビCMに多額の費用を注ぐ。一方、象印は「マス広告には1円も使わない。その代わりに、消費者が商品に触れる機会を徹底して増やす」と宮越芳彦・国際営業本部長は強調する。

 象印はここ数年、中国各地の百貨店など700店の催事スペースで、ご飯に合う料理の実演調理をしている。

中国でも店頭で調理家電を使った試食会やレシピ紹介を武器に販促

 加えて今年開始したのが「100万人試食キャンペーン」だ。日本のコメ卸大手の木徳神糧と協力し、百貨店や現地企業のオフィスなどに、コメの洗い方などに熟達した「炊飯達人」を派遣する。象印の炊飯器で炊いたご飯を3年間で100万人に食べてもらい、日本の調理家電の品質を直接舌で理解してもらうという販促策だ。

 開発はコストを抑えつつ、顧客満足に直結する味や便利さに集中する。海外では販促費用を対面PRに投下する。経営資源が限られているからこそ、象印の大胆な割り切り戦略が生まれた。競争力強化や他社製品との差別化には何が必要で何が不要か。冷静に考えることも重要だ。

INTERVIEW
市川典男社長に聞く
目に見えない便利さ、付加価値の源泉に

 100年前、魔法瓶という新技術に着目し、商品に象のブランドを付けて当社は創業した。その後、炊飯器やホットプレートに参入して総合家庭用品メーカーとなり、最近ではタイなど海外に製造拠点を設けた。今では売上高の3分の1は海外となった。大きな変化のあった100年だった。

 これからも、次の時代を見越して会社の形を変えていく必要があるが、「暮らしを創る」という企業理念は守っていく。暮らしに便利な商品を提供するために、「日常生活発想」という企業スローガンも掲げている。

(写真=菅野 勝男)

 理念を実現するためには特定の技術や販売手法には固執しない。例えば、電子ジャーの開発時、当社はコア技術である魔法瓶によるご飯の保温をやめ、温度調節用に村田製作所の電子部品を導入した。

 炊飯器市場では、訪日外国客の爆買いが調整局面に入ってきた。当社の売り上げを底上げしたが、中国への転売目的も多くあり、海外販売に悪影響を出す部分もあった。影響が一服して、落ち着いて海外戦略を打ちやすくなったと考えている。

 これまで日本の家電メーカーは、皆同じような製品を作り、価格競争に陥ってきた。そこに、英ダイソンの掃除機や仏ティファールの電気ケトルなどが登場した。海外メーカーが違う視点で商品を出すと、市場を簡単に奪われてきた。

 今後も生き続けるためには、他社には無い商品を作り続け、付加価値を高める必要がある。当社は消費者の不満要素を減らすよう、細かい改善を徹底的に重ねている。目に見えない部分、普段は気付かれない部分に象印の強さがある。5年、10年といった生活家電の買い替えサイクルの中で、当社の良さを分かってもらえる商品作りをこれからも続けていく。(談)