国内の家電業界は長らく、ライバル社製品との差別化と価格競争に苦しんできた。一方、商品間の違いが小さいように思える炊飯器市場で、象印はしっかりと付加価値をつけて利益を上げている。不思議な力強さを持つ会社だ。

1918年に創業、当初はガラス魔法
瓶の中瓶製造を手掛ける。戦後、事業
を急速に拡大(50年代の工場の様子)
その後多角化を進め、74年には業界
に先駆けて「電子ジャー炊飯器」を
販売した
(写真=都築 雅人)

 「当社は家電メーカーではなく家庭用品メーカー。エレクトロニクス技術を磨く前に、家庭生活で便利なものは何かをまず考える。この姿勢が顧客の満足感につながっている」。こう自己分析するのは象印の市川社長だ。それは同社の歴史に関係する。

 創業は1918年。大阪で魔法瓶のガラス中瓶製造を始めた同社は、70年代に電気を使った家電製品に本格参入。電子ジャーや電気ポット、トースターを商品群に加え、今年創業100周年を迎えた。「便利な商品を作れるなら、電気に限らずどんな技術でも活用する」と市川社長は言う。顧客満足に直結するなら、この割り切った発想を持ち続けていくという。

炊飯器開発では味と便利さの追求にリソースを集中すると話す山根博志部長(写真=菅野 勝男)

 開発拠点がある大阪工場(大阪府大東市)で炊飯器の開発トップを務める山根博志・第一事業部長は、「おいしさと便利さに直結する部分にテーマを集中させている」と説明する。

 まず開発では年間30トンのコメを炊く。6000人の年間消費量に相当する量だ。あらゆるコメや水の種類ごとにご飯を炊き、「甘さ」「粘り」などのデータを取る。さらに、大規模商談会などで試食会を開き、「関西人は軟らかめが好き」など傾向を分析し、新製品の設計イメージを議論する。

 一方、象印は「最新技術でもおいしさや便利さに直結しない分野は研究しない」(山根部長)という。だから他社が採用したような、スマホ連携や音声操作対応といった機能には目もくれない。

 もう一つの重点テーマは、顧客の「面倒くさい」をいかにして減らすか。吹きこぼれを防ぐ蒸気口部分の構造を工夫して、洗い掃除を不要にするなど、地味な改善を徹底し続けてきた。

 一般的に、炊飯器は掃除機や洗濯機に比べ顧客の不満が小さく、買い替えの際のブランド変更が少ないとされる。顧客満足の中心となる味と便利さの2点に開発を集中することで、大規模な広告を打たずに顧客を囲い込んできた。

布団乾燥機の市場を2.5倍に

 余計な研究開発には手を出さない。それは数字にも表れている。象印の売上高に占める開発費は0.8%。取り扱う商品群に違いはあるものの、パナソニック(5.6%)などとの差は歴然だ。

 さらに、自社にない技術が必要ならば、あっさりと他社に頼る。この割り切りが見られるのが、2012年に発売した布団乾燥機だ。

 布団をふっくら温め、梅雨時や冬季に重宝されるが、従来は長いホースや布団の間に空気を入れるマットなどの部品を出し入れする必要があった。その手間を嫌い、タンスの肥やしになっている家庭も少なくない。