「いくら良いものを作っても、品質の違いが消費者に伝わらなければ意味がない」。そう考えた藤高社長は、クリエーティブディレクターの佐藤可士和氏を組合の指南役に迎え、「今治タオル」のロゴマークや品質基準を作成。小売店の店員向けに「タオルソムリエ」という資格試験制度も立ち上げ、肌触りや吸水性などの品質の違いを伝えられる人材を育てた。
こうした地道な取り組みによって、「今治タオル」の認知度が徐々に高まり、10年には、18年連続で下降していた今治タオルの生産量がついに上昇に転じ、低迷していた藤高の業績にも明るい兆しが見え始めた。
脱・コバンザメ経営

「以前は、『楽な商売』に安住していた」。藤高社長はそう述懐する。業績が絶好調だったバブル期、売り上げの多くを占めたのは欧米の高級ファッションブランドのライセンス製品だった。 贈答用に高級ブランドのロゴをあしらったタオルが飛ぶように売れた。高額のライセンス料を支払うため利幅は薄かったが、定期的にまとまった量の注文が舞い込んだ。デザインも指定されているため、「売り方など考えなくても、注文通りに作れば売れた」。
だがそうした贈答品の需要は、バブル崩壊後、お中元やお歳暮の習慣が薄れていくにつれて、年々縮んでいった。海外の有名ブランドが、ブランドイメージを守るためにライセンス生産を相次いで取りやめたことも響いた。コバンザメのように他社のブランドに頼るのではなく、自らの持つ技術や品質を「ブランド化」して売る。そんな発想の転換の必要性を最も痛切に感じていたのが、一時はライセンス製品に売り上げの半分を依存していた藤高だった。
こうして地道なPR活動を続け、「今治タオル」が高品質なブランドとして広く知られるようになった結果、新しい販路が開けた。評判を聞いた化粧品や日用雑貨などのメーカーから、「オリジナルのタオルを作ってほしい」という注文が舞い込むようになったのだ。
一度に大量の発注があるかつてのライセンス製品に比べると、「多品種」「少量」「短納期」という手のかかるビジネスだ。しかし、高額のライセンス料がかからず、直接取引なので問屋へのマージンも不要。藤高は、分業化が進んだ今治では珍しく全工程一貫生産をしているため、生産管理をしっかりすれば、十分な利益を確保できる。そして多くの商品には、今治タオルのブランドロゴをあしらったタグを付ける。
「顧客ニーズに応じて、多種多様な色や風合いの高品質タオルを作ることができる技術が、『価値』として認められたのが、何よりうれしかった」(藤高社長)。その結果、12年8月期を底に、業績は着実に回復していった。今ではこうした直接取引する相手からの注文が藤高の売上高の実に4割を占める。
藤高は6月中旬、東京に直営のタオル専門店を出店する。場所は、世界の名だたる高級ブランドが入店し、多くの訪日客が訪れる商業施設「GINZA SIX」の、すぐ裏。10年余りかけて築いた「今治タオルブランド」を、世界に向けて発信する。
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