伊藤ハムと米久が経営統合してから2年。生産や物流などの面で統合効果を引き出してきた。今年からは商品の共同開発にも乗り出したが、業界最大手の日本ハムの背中はまだ遠い。見逃せないのは筆頭株主の三菱商事の存在だ。同社を加えた「3社連合」にこそ、本当の力が秘められている。

(日経ビジネス2018年5月21日号より転載)

牛や豚の繁殖・育成ノウハウを地方の農家に伝授。全頭買い取りを保証するなどして資金繰りを支援し、入荷量の安定につなげる

 なだらかな丘陵地に、強烈な日差しが注ぐ。幾重にも並んだ牛舎からは「モー」と気持ちよさそうな声が聞こえる。

 ここは「沖縄美ら海水族館」で有名な沖縄県北西部の町、本部町。市街地から少し離れた山間部にあるもとぶ牧場では、2000頭ほどの黒毛和牛がのんびりとした時間を過ごしていた。

 この牧場は、伊藤ハム米久ホールディングス(HD)の事業子会社、伊藤ハムにとって、今後の食肉調達の鍵を握る拠点だ。「企業のノウハウを生かして地方の農家の経営を安定させ、役割分担できる仕組みを築いていく。もとぶ牧場をそのモデルケースにしたい」。食肉事業を担当する山口研・伊藤ハム米久HD取締役は力を込める。

 なぜ、もとぶ牧場か。同牧場はもともと競り市で生後9カ月前後の「素牛」を購入し、2年近く育てて出荷する「肥育農家」だったが、自ら母牛を保有し、素牛を育てる「繁殖農家」の展開を目指している。そこに繁殖ノウハウを提供しようというのが、伊藤ハムの役回りだ。

 伊藤ハムには牛の繁殖ノウハウがある。2010年から取引関係にある宮崎県などの協力牧場と情報を共有し、実際の繁殖の条件や飼育のポイントなどを学んできた。もとぶ牧場とは10年ごろから取引関係があったが、いわば、一緒に牛を繁殖し、飼育するパートナーになることで、安定して食肉原料を調達しようというわけだ。

 もとぶ牧場は3月から畜産業での異例の取り組みも始めている。地元の琉球銀行などが資金拠出するファンドを使い、子牛を繁殖するための母牛を購入するのだ。こうした畜産農家の新しい取り組みを後押ししていくのも伊藤ハムが目指すべき方向だ。

牛の飼育農家は減り続けている
●食肉牛の飼育農家数の推移(国内)
注:農水省の畜産統計調査

 背景には畜産農家の減少に対する危機感がある。日本の牛の飼育農家数は17年は5万100戸と、10年前から4割近く減少。中でも、労働負荷の高い繁殖農家は後継者不足に悩んでおり、競り市に素牛を供給するパイプが細っている。野村証券の藤原悟史アナリストは「和牛需要は安定しているが、供給はこのままでは危ない。危機的状況にある」と指摘する。