今は好条件の「惑星直列」

「iPhone」登場までは王者だった
●ブラックベリーの歴史

 その点、ブラックベリーは携帯端末メーカーとして培ってきたセキュリティーや暗号化技術に定評がある。複数のOSを一つのコンピューターやチップの中で個別に動かす仮想化技術も持っている。

 コネクテッドカーや自動運転の実現にはセキュリティー対策が万全なOSが不可欠。その中で、車載向けの安全性の高い組み込みOSを持つブラックベリーは極めて有利なポジションにいる。「今の状況は我々にとって(好条件がそろった)『惑星直列』」。カービル氏が胸を張るのも理解できる。

 転機はジョン・チェン氏が暫定CEO(最高経営責任者)に就任した4年半前に遡る(その後、正式なCEOに就任)。

 00年代半ばから後半にかけて、ブラックベリーの携帯電話は市場を席巻したが、10年代に入るとスマホとの競争に敗北、シェアの大半を失った。09年に4割を超えていた世界シェアは今では0.4%にすぎない。11年以降は毎年のようにリストラを実施、現金が流出していた。

 敗北の要因は様々に語られている。パソコンと同じ配列のキーボードに固執してタッチパネルの展開が遅れたのは周知の事実だ。アップルやグーグルがアプリ開発者にプラットフォームを公開、誰でも参画できるエコシステムを構築してアプリ提供者を増やしたのに対して、ブラックベリーが対応に遅れたのも事実だろう。

 アップルやグーグルによる革命的な“ゲームチェンジ”の敗者として、ブラックベリーの名前は産業史に刻まれている。

 瀕死の状況に陥る中で、様々な身売り話が浮上した。だが、いずれの計画も実現せず、企業再生の専門家として知られるチェン氏の下で再建を目指すことになった。チェン氏は当時、米パソコンメーカーのデルの非公開化を手がけたプライベートエクイティ企業、米シルバーレイクのシニアアドバイザーを務めていた。

 「ブラックベリーは人々の働き方やコミュニケーションに真の革命を起こした会社。そのまま消滅していくところは見たくなかった」。チェン氏は就任の理由をそう語る。

 暫定CEOに就任したチェン氏は、同社の強みを改めて棚卸しした。

 ブラックベリーの携帯電話の強みは、メールやキーボードの使いやすさもさることながら強固なセキュリティー技術にあった。データの送信は端末サイドで暗号化されており、米国をはじめとする先進10カ国すべての政府機関やセキュリティー当局でブラックベリーの製品が採用されていた。真の強みはセキュリティー技術にあるとみた。

 次に、市場の状況を考えた。

 当時はまだスマホ市場が成長していたが、競争は厳しく利益は縮小傾向にあった。その中で、収益を伸ばせる領域はやはりセキュリティー市場だった。とりわけ、コネクテッドカーや自動運転などの開発が進む自動車のセキュリティーはいずれ課題になる。コアコンピタンスを生かしてハードからソフトウエアに転換する──。チェン氏の中で再生の方向性は明確になった。