すでに見てきたように、ボッシュは非上場企業という強みを生かし、長期的な視点に立った経営が可能だ。だからこそ、未来に対する投資で手を抜くことはしない。優秀な研究者たちにとっては、そんな潤沢な研究開発費の下で働けることは何にも増して重要だ。「世界トップクラスの研究者にとって最大の魅力は、世界トップクラスの研究ができること。その環境がBCAIにはある」(ヤディディ氏)のだ。

問われる社員のモラル

 もちろん、世界で事業を展開し、多様な人種と人材を抱えるようになれば、ボッシュが大切にしてきた、企業活動と社会貢献活動の2つの永続を一人ひとりの社員に訴えるにも限界が来るかもしれない。昨年、フォルクスワーゲン(VW)など独自動車メーカーが窮地に陥ったディーゼル不正問題を巡っては、基幹部品を供給していたボッシュにも疑いの目が向けられた。ボッシュは関与を否定しているが、米国で起こされた集団訴訟では和解金を支払っている。

 社員一人ひとりのモラルが問われる局面が訪れることはこれからもあるだろう。だからこそ、創業者の理念が大切になる。そして、ボッシュには時代が変わろうとも、企業規模が大きくなろうとも、創業者の遺志をつなぐ仕組みがある。市場からのプレッシャーのない非上場企業だからこその統治体制とはいえ、そこから日本企業が学ぶことは少なくないはずだ。

INTERVIEW
フォルクマル・デナーCEO(最高経営責任者)に聞く
「人の生活を豊かにする」が企業の未来を創る

 イノベーションは、ボッシュが競争力を維持していく上で欠かせない基盤です。毎年、売上高の10%程度を研究開発に費やしているのはそのためです。

 多くの企業がそうであるように、我々も今、大きな変革期の中にあります。その引き金を引いたのが「コネクティビティー(インターネットへの接続性)」。これが従来のビジネスモデルを変え、従来の商品を変え、我々の働き方をも変えていく。この大きな変革の波を乗り切るには、業界最先端を走り続けてきた過去は捨てなければなりません。

 変化は同時にチャンスでもあります。例えばこれまでの家電は、販売後にメーカーと消費者とのつながりが切れてしまうものでした。でもこれからは、消費者と直接つながり続けます。私は今、「2020年までにボッシュの電化製品の全てをインターネットにつなげること」を目標に掲げています。これからは製品とともに「サービス」も売っていくということです。

 状況は悪くありません。我々は自動車部品、消費財、産業システム、エネルギー・建築関連の全ての部門で活発に新技術に取り組んでいます。さらにIoT(モノのインターネット)に必要不可欠な技術であるセンサー、ソフトウエア、サービスにおいても実績がある。16年には、我々が提供するIoT製品を支えるクラウド「Bosch IoT Cloud」の運用も始めました。

 こうした取り組みの中でAI(人工知能)は重要な要素になります。今まではただつながっていただけのモノが、自分で学んだり判断したりできるようになる。社内では、5年後にはボッシュの売り上げの10%を占める製品にAIが、10年後にはほとんど全ての製品にAIが搭載されるだろうと予測しています。製品だけではなく、製品の開発や製造といった過程でも重要な役割を果たすでしょう。当然、自動車も例外ではありません。

 創業者のロバート・ボッシュの思想にあるように、我々は「企業の明るい未来は、財務の独立性を維持し、顧客にとって強力で意義深い開発をすることで手に入る」と信じています。全ての事業で共通してこだわっているのは「Invented for Life」(人々の生活を豊かにする開発)。この理念を貫くことこそが、社員のやる気を引き出し、優秀な人材を引き付ける引力になると考えています。(談)