企業活動と社会貢献活動の2つの永続。ボッシュ一族が少人数ながら財団や企業側に名を連ねているのは、この創業者の理念が、きちんと組織に生き続けているかの「見張り役」を兼ねていると考えられる。しかも、ボッシュが年に1回、財務情報を公表し、財団も資金の出入りを公表するのは、こうした独特の統治体制が取引先や顧客など周囲の理解を得るために欠かせないと分かっているからだろう。

 従業員もこうしたボッシュの統治体制に誇りを持っている。自動運転の開発を担当するシャシー・システム・コントロール部門プレジデントのゲルハルト・シュタイガー氏はこう話す。「私たちが一生懸命に働いて稼いだお金は、財団が社会のために使ってくれる。社会に貢献しているという満足感は何にも代えがたい」

 会社は社会のためにある。日本でもそうした考え方はあるし、それを目指す企業も少なくない。だが、実際にやり遂げるのは簡単なことではない。それをボッシュはぶれることなく、創業者の遺志を受け継ぎ、やり続けている。

 象徴するエピソードがある。リーマンショックで09年、会社が赤字に転落した時だ。

だから優秀な人材が集まる

 本来なら、財団はその年の収入がゼロになるはずだった。だが経営陣の判断で通常の9割の配当金が内部留保から支払われた。痛みは会社の全員で分け合った。経営上層部から高い割合の給料カットを実施し、従業員も勤務時間を減らすなどして協力したという。

 当時のことを財団の職員がこう振り返る。「おかげで僕らの給料は支払われたし、慈善活動のプロジェクトも続けられた。あの時ほどボッシュのスゴさ、創業者の理念の素晴らしさを感じたことはなかった」

 この社風もまた、創業者が生み出したものだ。ボッシュ氏は会社を起業する前、一時的に米国に渡り、そこでドイツ移民に課せられていた過酷な労働に耐えた。帰国して起業したボッシュでは、1906年から1日8時間労働、10年には週休2日制などを導入している。はるか100年前から、「働き方改革」を推進していたわけだ。

 こうした企業風土は、優秀な人材を囲い込む上で役立っている。それは、自動運転やAI(人工知能)など産業構造を大きく変える新技術が台頭する中では、大きな武器となる。

シュツットガルトの郊外にある開発拠点

 世界に約40万人の従業員を抱えるボッシュだが、その多くが専門スキルを持つ人材だという。自動運転関連の技術者だけで約4000人。2017年1月に3億ユーロ(約400億円)を投じて開設したAIの基礎研究所「Bosch Center for Artificial Intelligence(BCAI)」は、現時点では百人規模だが数年内にも倍増する計画だ。「ほぼ全員が博士号保持者で、中には大学で教えている教授もいる」(BCAIでリサーチ部門を管理するヤセル・ヤディディ氏)

2017年1月に設置したAIの基礎研究所「Bosch Center for Artificial Intelligence(BCAI)」もこの中にある。要素技術の開発者だけではなく、さまざまな分野の技術者が集結するため、イノベーションが生まれやすい

 BCAIでは、学術的な最先端の基礎研究に加え、ボッシュの事業部門にAI導入についてアドバイスしたり、それぞれの事業部門が開発する商品向けにAIを開発したりしている。今、特に力を入れているのが自動運転システムに関わるAI。20年代前半までに市場投入することを目標としているレベル5の自動運転車向けだ。