「所有」と「経営」の分離が長期繁栄の肝
●世界でも稀有なボッシュの企業統治体制
工業信託合資会社が長期的視点に基づいて会社の経営を監督し、出た利益は会社株式の92%を持つ財団に還元する。財団はその収益を病院経営や若手経営者育成などの慈善事業に充てる

 企業統治体制は独特だ。上の図に示したように、ボッシュという企業の株式を持つのは、公益財団のロバート・ボッシュ財団だ。ここがボッシュ株の92%を保有する。ただ、財団が持つ株式には議決権はない。一方で、ボッシュの役員や役員OBらが加わる「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」が1%の株式保有比率ながら93%の議決権を持つ。

 つまり、ボッシュという企業を所有するのは、財団だが、経営の監視・監督をするのは合資会社という構図だ。創業家も7%の議決権のある株式を持ってはいるが、経営に口出しすることはしない。財団や企業のメンバーに名を連ねる創業家出身者もいるが、彼らの役回りは日本でいえば、監査役であり、経営の執行側に立つことはないという。

 なぜ、こうした「所有」と「経営」を分離する体制を築いたのか。

創業者の理念を後世に残す

「Invented for Life」(人々の生活を豊かにする開発)がロバート・ボッシュの信念だった(左の写真の中央)。右の写真は1936年当時のフォイエルバッハ工場でスパークプラグの検査をする女性たち

 創業者のロバート・ボッシュ氏の遺言が基となっている。

 1942年に死去した同氏が望んだのは、企業活動と社会貢献活動の「2つの永続」だった。

 同氏は生前、実業家であると同時に慈善家でもあった。第1次世界大戦では特需で稼いだ金を使って貧困層に提供する住宅を建てたり、第2次世界大戦ではナチスに追われたユダヤ人たちに密使を送ってカネを届けたりした。自身の長男を病で若くして失ったことから、1921年には病院まで設立。現在の財団の前身を同年に設立している。

 そんな創業者の理念を後世に長く残すために考えられたのが、世界でも類を見ない企業統治体制だった。

 ボッシュという企業はきっちりと成長を遂げ、利益を上げる。その利益の多くを、株主である財団に提供し、財団は社会貢献活動を続けていく。

 実際、ボッシュは2016年に計上したEBIT(利払い前・税引き前利益)の3分の1以上の12億6800万ユーロを財団に提供。財団はこの資金を創業者が設立した病院の運営や医療技術の開発、世界の起業家の育成や、高齢化や環境問題といった社会課題の解決に充てている。