ただし、好調な電池材料事業にもリスクはある。自動車産業がEVに力を注ぐ中で、走行距離などを大きく伸ばすと期待されている次世代電池の開発が進んでいるからだ。

 業界では、同社が製造しているタイプとは異なる正極材を使うリチウムイオン電池も、開発されている。また、電解質を液体から固体に変えた全固体電池が、車載用リチウムイオン電池を20年代に置き換える可能性も指摘されている。住友金属鉱山も全固体電池向け正極材の開発を進めているが、他社に市場を奪われるリスクがある。

 さらに、EVに搭載した同社製の電池が発火し、事故を起こすリスクもゼロではない。製造工程での異物混入などにより同社の正極材が原因となれば、顧客や社会からの信頼を再び失う。

 こうしたリスクを回避するためにも、住友金属鉱山は東海村JCO臨界事故の記憶を風化させまいとしている。磯浦工場の一角には10年から、社員がJCO臨界事故を学ぶための研修施設が設けてある。社員には研修を受けさせるだけではなく、必ず感想文を書かせ、仕事に生かすことを求めている。既に住友金属鉱山の社員の9割以上に当たる約5300人がこの研修を受けた。

 同社は4月6日、中里社長が6月に代表取締役会長に就任し、次期社長には野崎明・取締役常務執行役員が就くことを発表した。5年間、社長を務めた中里氏は、「二度とJCOのような事故を起こさないことが、当社にとって最も大事なことだ」と語る。野崎次期社長は事故の教訓を引き継ぐことが課題になるだろう。

 社会的信用を失ったことで、破綻した企業は多い。臨界事故という未曽有の事態を経験した住友金属鉱山は、20年近くの歳月をかけて事業構造を変えてきた。その長期的な視点は、失敗から学ぶ大切さを多くの企業に語りかけている。

INTERVIEW
住友金属鉱山 中里佳明社長に聞く
理解できない事業はやらない
(写真=北山 宏一)

 1999年9月30日、子会社JCOで臨界事故を起こしました。これが現在の経営の原点です。それまで多角化を進めていましたが、それが事故の一因だったと反省して本業回帰へと経営のかじを切りました。

 私は電子事業本部事業室長だった事故当時から一貫して、集中と選択を進めてきました。主に電子部品関連の事業から撤退し、材料分野に経営資源を集中しました。その中核が電池材料です。

 事故の教訓の一つが、社会からの信頼を決して裏切ってはならないということです。そうするには、長期視点で持続的な成長ができる事業構造に転換する必要があり、中長期的に需要が期待できる車載用の電池材料事業をなんとしても軌道に乗せたかったのです。その強い思いがあったから、トヨタ自動車やパナソニックなどの厳しい要請にも必死に応えました。

 今は米テスラに電池を供給するパナソニックからの要請を受けて、電池材料の生産能力を大幅に増やしています。テスラは今、新型EVの量産に苦労しています。我が社がテスラに肩入れし過ぎではないかという意見もあるかもしれませんが、顧客がフル稼働になった際に電池材料を十分に供給できず、機会損失になることの方が問題だと考えています。テスラの量産開始の遅れは、電池材料の生産体制を整える準備期間に使えると前向きに捉えています。

 資源の安定確保も常に考えています。2016年にチリのシエラゴルダ銅鉱山で減損損失を計上した直後に、モレンシー銅鉱山に追加出資した際には、投資家などから批判されました。しかし、そもそも資源事業の評価は10~15年ぐらいたった後に分かるものでしょう。実際、今期はこの追加投資が増益の要因になっています。

 今後も資源、製錬、材料という3つの事業に集中していきます。経営者が理解できない事業は手掛けてはいけないというのが、多角化の反省ですから。(談)