足が不自由になってきた高齢者の移動を支える歩行車やシルバーカーで高いシェアを誇る。急速に高齢化が進む東アジアでの事業展開を視野に、先端技術の取り込みにも余念がない。
(日経ビジネス2018年4月16日号より転載)

センサーで状況を検知し、車輪を自動制御する歩行車「リトルキーパス」。上り坂ではモーターが車輪の回転をアシストする
おっと危ない。高齢者がバランスを崩しそうになると歩行車に搭載されたセンサーが異常を検知。ブレーキを自動的に作動させて、転倒を防止する。上り坂では電動自転車のようにモーターが車輪の回転をアシストして、楽に歩行できるようにする。そんな自動制御機能を備えた歩行車が「リトルキーパス」だ(上の写真)。
高齢者向けにこの歩行車を開発し、2015年から販売しているのが福祉・介護用品の幸和製作所(大阪府堺市)。業界初の自動制御機能を歩行車に搭載した理由について、玉田秀明社長は「荷物を積んで重くなると歩行車がむしろ歩行の邪魔になってしまうという課題を、技術で解決したかった」と話す。
きっかけは「乳母車に重石」
本社 | 大阪府堺市堺区海山町3-159-1 |
---|---|
資本金 | 4億8421万円 |
社長 | 玉田秀明 |
売上高 | 52億6000万円 (2018年2月期見込み) |
従業員数 | 約420人 |
事業内容 | 福祉・介護用品の製造および販売 |

幸和製作所は1965年、乳母車メーカーとして創業した。当時の日本は高度経済成長期のまっただ中。少子高齢化の不安などない時代だったが、先代トップの玉田栄一会長は街を歩いていて驚くべき光景に出くわす。足腰の弱った高齢者が乳母車に重石(おもし)を積み、つえの代わりに使っていたのだ。
「もっと安全なものを提供できないか」。そう考えた玉田会長は、高齢者に向けた新商品の開発に着手。70年、高齢者のつえの代わりになり、座って休憩したり、荷物を積んだりできる「シルバーカー(手押し車)」を発売した。それから約30年、高齢者の増加に伴い、幸和製作所はシルバーカーをテコに順調な成長を遂げることになる。
そんな幸和製作所が試練に直面したのは2000年。介護保険法の施行で導入された補助制度の対象品に、シルバーカーが含まれなかったのだ。
代わりに対象となったのが「歩行車」。ハンドルが腰まわりを覆うようにU字形に設計され、シルバーカーよりも歩行を補助する性能が高い。高齢者にとっても、保険対象でレンタル可能な歩行車の方が出費を抑えられる。このため「右肩上がりだったシルバーカー市場は勢いを失った」(玉田社長)。
シルバーカーと歩行車は外観こそ似ているものの、安全基準や、それを満たすための設計は異なる。シルバーカーで一時代を築いた幸和製作所にとっても、歩行車に市場を奪われる様子を見守るしかない状態が続いた。
どこに突破口があるのか。歩行車の利用状況を分析しているうちに、幸和製作所の開発担当者たちはあることに気づく。歩行車は輸入品が多く、サイズも大ぶり。小柄な人が多い日本の高齢者にとって使い勝手に課題が少なくない。さらに狭い住宅や介護施設では使いにくいという声も出ていた。
日本の住環境にあったコンパクトな歩行車を開発すれば、後発でも競争に勝てるはずだ。そう考えて07年に「テイコブ」という新ブランドで市場に参入した。軽量で高さを調整しやすいなどの特徴が支持されて販売は拡大。現在は国内シェアが3割弱で首位を走る。
[コメント投稿]記事対する自分の意見を書き込もう
記事の内容やRaiseの議論に対して、意見や見解をコメントとして書き込むことができます。記事の下部に表示されるコメント欄に書き込むとすぐに自分のコメントが表示されます。コメントに対して「返信」したり、「いいね」したりすることもできます。 詳細を読む