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同じ職種や業種にこだわらないことも重要
●経験を生かした転職の例
注:藤井薫リクナビNEXT編集長の話を基に本誌作成

 まずはこれまでの仕事を通じて、どんな経験をしてきたのか、どんなスキルを磨いてきたのかを深掘りすることが転職活動の第一歩。先入観を持たずに自分の価値を見いだすことが大事だ。

 志望業界が決まってからも当然、壁はある。それまでとは異なる業界にアプローチするならなおさらだ。

 「夜も眠れず、うつ一歩手前でした」。40代後半で転職活動をした中村康介さん(仮名)は、自らの経験をこう振り返る。中村さんは大学卒業後、流通業でシステムの開発を担当していた。だが担当者が少なく24時間365日、システムのお守りをする生活に疲れ果て、40代後半で退職を決意。1年ほど無職の生活を続けてから再就職を目指して「地獄を見た」。

 転職にあたって、希望したのは学生時代から興味のあったマスコミ業界。だが、最初に行ったハローワークには「自分の年齢に合致しそうな求人は、ネットショップやガードマンなどしかなかった」。そのため転職エージェント2社に申し込んだ。1社は、会うこともなく「あなたに合う求人は紹介できない」とのメール。もう1社は会ってくれたが、希望していたマスコミ業界は「経験もないし、正直求人はない」と切り捨てられた。仕方なく、前職でやっていたシステム関連の仕事を探して応募するも、もともと中高年を対象にした求人は少ない。

応募したつもりでも……

 中村さんの企業へのアプローチの仕方は、オーソドックスに見える。だが、冒頭のセミナーで講師をしていた転職コンサルタントの佐々木氏は「中高年の転職がうまくいかない理由の一つには、『応募したつもり』になっていることがある」と指摘する。

 どういうことか。実はネット上にある求人は制限がないように見えても、ある年齢以上の応募を自動的に除外するフィルターがかかっていたり、採用側と応募側の間に入る紹介会社が、中高年の応募者をはじいたりすることが今も多い。このため「確実に採用担当者が書類を見るようにすることが大事」と佐々木氏は説く。具体的には、狙った企業に郵送で履歴書を送る。ネットだけで受け付けている企業にとっては「常識外」の行為だが、個人情報保護が叫ばれる今、「履歴書在中」と書いてある封筒をそのまま捨てる企業はほとんどない。

 そうした「実応募」を繰り返していけば、まだ世の中に出していない求人に当たる可能性がある。企業では「担当者が辞めたばかりなど、かなりの頻度で求人が隠れている」(佐々木氏)。そうした状況で、もしピッタリの人材が書類を送れば採用につながる可能性はぐっと高まる。

 中村さんもこの方法で念願のマスコミ業界への転職を果たした。前職で800万円ほどだった年収は上がり、人間関係も良好で「今は幸せ」と喜ぶ。

 もちろん、「実応募」さえできれば転職できるほど現実は甘くないだろう。どの世代であれ、求職者に必要なのは、仕事に対する思い。自分の給料や働き方だけではなく、「会社に貢献する」「社会をよくする」といった「利他」の気持ちが大切だ。

 リクナビNEXT編集長の藤井氏は「ポテンシャルを見込んで採る30代までと違い、40代以降には『この社会の“負”をなくしたい』といった課題解決意欲を企業は求めている」と指摘する。企業にとっては年収やキャリアばかりを気にする中高年人材は「お荷物」にしかならないのだ。

 自分の経験やスキルをどれだけ社会や会社のために役立てるか。転職を成功させるには「自分ファースト」の意識をどこまで改められるかが勝負となりそうだ。