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 12年設立の同社は、神田さんのような金融業界のベテラン人材を積極的に採用している。2018年9月に入社した家田明さんは55歳。ちょうど、日銀に残るか外に出るかの選択を迫られる頃、後輩の神田さんから誘われた。2018年10月にCo-CFO(共同最高財務責任者)に就任した内河俊輔さんは外資系証券会社出身。42歳で前職を辞め、約1年後にマネーフォワードに入社した。

 転職の間口が広がっているのは、何も新しい企業だけではない。既存の業界でも新規事業の立ち上げや、事業拡大に伴うマネジメント人材の不足を補おうと、中高年のスキルを求めている。

 09年に家電事業に参入した生活用品製造・卸のアイリスオーヤマ(仙台市)。家電事業の売上高は18年12月期に1000億円を超え、全体の過半を占める見込みだが、この成長を支えたのも転職組だった。

まだ現役でできる

 今も年30~40人のエンジニアを中途採用するが、その7、8割が40代以上。「大手では管理職になってしまうが、自分でまだ設計したい、という技術者が来てくれる」と原英克家電開発部長は話す。2018年10月に発売した蒸気を使って食材を解凍する電子レンジは、ある技術者が大手でできなかったアイデアを形にした製品だ。

 様々な家電製品の開発を急ぐアイリスだけに、求める技術者のスキルも多様だ。9月に入社した49歳の小島孝之さんは、炊飯器の設計を担当してきた経験が生きる。

 高校卒業後、日立熱器具(現日立アプライアンス)に入社し、30年間調理家電の設計開発を担当してきたが、2018年5月に早期退職に応じて退職した。再就職支援プログラムで転職活動を始めたところ、炊飯器の自社設計力を強化したいアイリスから、面接の申し出があった。

小島さんの転職のきっかけは10年間の単身赴任。新天地でも炊飯器設計を続ける(写真=松田 弘)

 「ラッキーだった」と自身で振り返るように、小島さんの転職はとんとん拍子に見える。それでも、「3カ月間自宅にいると、社会復帰できるのかものすごく不安になった」と明かす。昼間のスーパーは高齢者ばかり。自分もリタイアしたような錯覚にとらわれた。

 いくら企業が中高年の中途採用に積極的になっても、企業が求める人材と自分が持つ経験やスキルはそう簡単には合致しない。だが、諦めるのは早い。当初、想定していなかった業種や企業で、自分のスキルが使える場合もあるからだ。

 前出のリクナビNEXT編集長の藤井氏はこう指摘する。「同じ業界、同じ職種で探そうとすると間口が狭くなる。だが、広げればチャンスは増える」。中高年は「20年以上働いてきた中で、必ず様々な仕事に使える何らかの筋肉を鍛えてきている」(藤井氏)。それが中高年世代の最大の強みとなる。

 例えば、高級車の営業に携わってきた人は富裕層がどんな生活をしているか、何を好むかを知っている。その知識は高級車販売にとどまらず、高級品専門の通販サイトの営業でも使える。

 学習塾で1つの教室を任された人なら、単に子供たちに勉強を教えるというスキルだけでなく、面倒な親の説得方法や子供たちの扱い方にたけている。学生が親と一緒に携帯電話を買いに来る店舗で、その経験が生きる。