転職市場で長くいわれてきた「35歳限界説」が崩れ始めている。経験とスキルを持つ中高年に対する企業の採用意欲は高まり、求人数も増えてきた。もちろん誰もが転職できるほど甘くはない。成功するためのツボを探ってみた。
(日経ビジネス2018年11月5日号より転載)

「中高年の転職は、まず応募先の探し方から始まります。決して、楽ではありません」
2018年10月中旬のある土曜日の夜。東京都品川区の公共施設の一角で、中高年の転職をテーマにしたセミナーが開かれていた。40、50代とおぼしき10人弱の参加者が、講師である転職コンサルタント、佐々木一美ベルコリンズ研究所代表の熱弁に耳を傾けていた。
その一人、古田壮太さん(仮名、43歳)は、今勤めているIT(情報技術)企業からの転職を考えている。きっかけは愛知県への転勤の打診。数年間従事したエネルギー企業のシステム構築のプロジェクトが終わったタイミングだった。期間は8年。ただ、古田さんには心配ごとがあった。介護が必要な母親を東京に残してしまうことだ。姉はいるが、自分もそばにいたい。
「サラリーマンとして、異動は断れないと分かっている」(古田さん)。実際、東京に残れば仕事の中身は変わり、給料は現状の4分の3に減る見込み。「会社にしがみつくのも一つの選択肢だが、60歳になるまで、あと15年以上ある。転職して新しいことにチャレンジしたい」。そんな思いがふつふつと湧き出てきたという。今はITを生かした農業に従事できないか探っている。
トランスフォーメーションが背景
古田さんの背中を押すのは、中高年に門戸が開けてきた転職市場の存在だ。少し前まで「35歳が限界」といわれてきたが、総務省の労働力調査を見ると、45~54歳の転職者は2017年に50万人と7年前より12万人増えている。同じ期間に25~34歳の転職者が82万人から79万人に減ったのとは対照的だ。転職あっせん国内最大手のリクルートキャリアが仲介した40~59歳の17年度の転職件数も、09年度比2.9倍。公共職業安定所(ハローワーク)の「管理的職業」の18年8月末時点の有効求人数は12年末比1.9倍だ。
背景にあるのは「世の中全体のトランスフォーメーション(変革)」と藤井薫リクナビNEXT編集長は指摘する。米ライドシェア(相乗り)大手のウーバーテクノロジーズのようなシェア経済の担い手が現れ、米ネット通販大手のアマゾン・ドット・コムが既存の小売業を揺るがす時代。あらゆる業界でビジネスモデルの変革が求められている。新卒採用で育てたり、今いる社員だけでは対応できない。経験を積んだ人材を幅広く囲い込む必要が増している。
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