出戻り社員をどう迎えるか

 一方、企業、とりわけ人事部門にとっては出戻り制度の運用が難しいという。退職してから出戻るまでのキャリアの評価もしかり。出戻り社員を迎え入れても、囲み記事『足かせは過去のプライドだ』にあるように、肩身の狭い思いをする社員も少なくない。以前、在籍していた当時の人間関係にも配慮する必要もある。通常の中途採用者に比べて、配慮すべき点が出戻り社員は多いのだ。

 どうすれば、ずっと在籍している社員も、出戻り社員も、気兼ねなく働ける環境を作り出せるか。

 もともと人材の流動性が高く、出戻り社員も多いIT(情報技術)・ネット関連企業の取り組みが参考になる。

ワークスアプリケーションズでは、2005年から出戻りを制度化。退職時に「カムバック・パス」(下)を手渡し、その後のキャリアにかかわらず復職できるのが特徴(写真=上:稲垣 純也)

 まずは、キャリアの評価。ERP(統合基幹業務システム)を手掛けるワークスアプリケーションズは在籍時の査定をそのまま出戻り社員に適用する。退職後のキャリアは不問というわけだ。

 仕組みはこうだ。社員が退職する際に、「カムバック・パス」と呼ばれる1枚の紙を手渡す。この紙があれば、退職後3年以内で同一部署、同一賃金という条件ながら、退職後のキャリアに関係なく出戻りを約束する。

 退職者全員にカムバック・パスが手渡されるわけではない。詳細は明かさないものの、「社内の職能で、ある一定のレベルに到達した社員が対象になる」とワークスアプリケーションズ人事部門の福島丈史チームリーダーは話す。制度そのものは05年に取り入れ、60人強の元社員が出戻った。

 実際にカムバック・パスを活用した濱田理美氏は、ワークスアプリケーションズで約7年勤務した後、大学の恩師が手掛けるスタートアップに転身。だが、その企業での事業は失敗し、カムバック・パスを活用して復帰した。「本当に使えると思っていなかったが、制度があれば、何かに挑戦する際にも踏み切りやすくなる」と振り返る。

 制度に頼らずに出戻り社員を確保する企業もある。ここでは退職後の元社員との関わり方がポイントになる。

 例えば、ネット広告を手掛けるアドウェイズ。同社は退職時に円満であれば人事部門が自動的に人材をリストアップし、岡村陽久社長を中心に退職後の社員と飲み会などを含めて、公私ともにつながりを維持する。

ネット広告のアドウェイズでは、退職時に円満であれば人事部門が人材プールに自動的にリストアップ。岡村陽久社長を中心に飲み会含めて公私につながり、制度を設けずに出戻り社員を受け入れている(写真=吉成 大輔)

 退職後の業務やプライベートな状況を把握することで、抱えているプロジェクトが終了したタイミングや悩みを抱えているタイミングに出戻りを促せるようになる。新規プロジェクトのメンバーを選ぶ際には、「退職者も候補者の一人として考える」と人事戦略室の西久保剛室長は話す。

 「古い考えかもしれないが、現在いる社員も辞めた社員も含めて家族と考えている」。岡村社長は退職した社員とつながりを持ち続ける理由をこう明かす。だからこそ「制度として明文化する必要はない」と続ける。

 社長の藤田晋氏自らが情報発信し、15年に出戻り制度を導入したサイバーエージェントは昨年、制度そのものを廃止した。「退職時の対話や、現社員と元社員のつながりで出戻り入社するケースが多いため」(同社広報)だ。

 出戻りが当たり前だから制度すら不要になりつつあるIT・ネット業界。ただ、人材の流動性が低い日本の多くの業界ではこうはいかないだろう。何よりも日本には「終身雇用」の慣行が色濃く残る。若年層を中心に起業や転職へのハードルが低くなりつつあるとはいえ、労働政策研究・研修機構が16年に発表した調査では、終身雇用を支持する人の割合は87.9%に達している。