入社した会社を退職してから、その後、復帰する「出戻り」社員が増えている。企業も転職や進学など自己都合退職者も受け入れ、“超即戦力”として期待する。とはいえ、まだまだ終身雇用の慣習が色濃く残る日本。出戻り社員を生かすにも工夫が必要だ。

(日経ビジネス2018年10月29日号より転載)

パナソニックグループの一員として「出戻り」したシフトールの岩佐琢磨CEO。(写真=吉成 大輔)

 10月2日、パナソニックが東京都内のインキュベーション施設で奇抜な新商品を発表した。その名は「WEAR SPACE(ウエア・スペース)」。音楽ではなく集中力を高めるために使うヘッドホンという触れ込みだ。

 ノイズキャンセリングで外界から音を遮断。パーテーションで視界を左右80度ほどに制限する。オープンスペースでも集中できる空間を作り出せる。オーソドックスな家電製品を手掛けるパナソニックからすると、“らしくない”新商品。実は企画そのものはパナソニックだが、開発や製造、販売は今年4月に子会社化したIoT(モノのインターネット)関連のスタートアップ、シフトール(東京都中央区)が担った。

(写真=時事)
復帰第1弾として、「WEAR SPACE」を共同開発

 大手企業とスタートアップの連携の一環といえば、それまでだが、特異なのはシフトールでCEO(最高経営責任者)を務める岩佐琢磨氏が元パナソニック社員ということだ。

出戻り急増のパナ

 岩佐氏は2003年にパナソニックに入社。ネット家電の企画に携わったが、当時のパナソニックでは思うように進まず、07年に同社を飛び出して家電スタートアップのセレボ(東京都千代田区)を立ち上げた。

 退職から10年以上たっての復帰は、退職後もつながりがあったパナソニックCTO(最高技術責任者)の宮部義幸専務との会話がきっかけだった。17年夏、「セレボの今後の成長に向け宮部専務に資金調達の打診をする中で、パナソニックへの復帰話が持ち上がった」と岩佐氏は明かす。

 いったんはパナソニックを飛び出しただけに「戻るかどうか悩んだ」という岩佐氏。だが、津賀一宏社長兼CEOや宮部専務など今の経営幹部の改革への意識は「かつて自分が在籍したパナソニックにはなかった」。これまでとは違うパナソニックならば、新たな挑戦ができるかもしれない。そんな思いから「出戻り」を決断した。

 パナソニック本体に戻るわけでなく、起業した経験を踏まえて新たにシフトールを今春設立。パナソニックの子会社として再スタートを切った。

 今の使命は「パナソニックに新風を吹き込むこと」と岩佐氏は自覚する。その成果の第1弾がウエア・スペースだ。開発では試作してから改良を重ねていく「アジャイル開発」を導入。パナソニック初となるクラウドファンディングでの資金調達も進める。

 大企業ゆえに社内には抵抗勢力も多い。「細かいことを挙げればキリがないが、パナソニック内でも新しいことにチャレンジする人材は確実に増えている」と岩佐氏。いったん「外の世界」に出たからこその視点で、パナソニックの従来の仕事の進め方に変革を迫っている。

 入社後、一度は退職した社員を企業が再雇用する「出戻り」。かつてはなかなか許されなかったが、その扉が開きつつある。