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 地下鉄9路線を運営する東京メトロの岩本大史オリンピック・パラリンピック推進室課長は「五輪があっても通常の経済活動を止めるわけにはいかない」と話す。だが五輪に向けての施策は現時点でホームドアやバリアフリー設備の整備、情報提供の強化などにとどまり、通勤ラッシュ時の混雑緩和を主目的にうたうものは見当たらない。

 JR東日本も「混雑が予想されるので、これから臨時列車の運行などを検討する」(広報部)としている。だが競技会場周辺に向かう路線の一つ、京葉線・武蔵野線の時刻表をみると、東京駅を出発する千葉方面の列車は午前8時台だけで21本。すでに過密ダイヤが組まれており、大規模な増発は望み薄だ。

 鉄道以上に影響しそうなのが道路交通だ。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会と東京都がまとめた「交通需要マネジメント推進に向けた基本方針案」によると、対策を講じなかった場合、首都高の渋滞は現況の2倍近くに悪化する見通し。そこで組織委は平日の交通量を通常より15%減らし、休日並みとする目標を掲げる。頼みの綱は「共助の輪の拡大」だ。

頼みの綱は「共助の輪」

 共助の輪とは何か。あくまで「自主的な取り組みが基本になる」としつつも、組織委は物流会社などに輸送ルートや配送時間の変更、路上における荷さばきの抑制などを呼びかける。

 だがハードルは高い。例えば生鮮食品から日用品に至るまで、幅広い商品をそろえるコンビニ。店舗への配送は1日8回前後。数十年前と比べると10分の1まで効率化されており、減便は困難だ。それでも配送を減らそうものなら「商品の安定供給が危うくなる」(大手コンビニ幹部)。

 消費者に求める「共助」も負担は大きい。具体的には宅配便の受け取り時間の変更や、再配達の抑制といった内容だ。近年ライフラインの一つといえるまで浸透したネット通販の利便性が低下するのは確実。大手ネット通販幹部は「組織委の要請なら従わざるを得ないが、消費者に迷惑がかかる。落とし所が難しい」と嘆く。

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局の片寄光彦・輸送担当部長は「大会の主催者側が『経済活動を止めて』と命じることはできない」と話す。「あくまで各企業・各個人に、それぞれできる範囲での協力をお願いするしかない」という姿勢だ。だが平昌冬季五輪をはじめ、最近の五輪では自動車のナンバープレートの偶数・奇数別に指定エリアへの乗り入れ規制をかけるのが定着している。「共助」にすがるだけでなく、主催者が主体的に抜本策を打ち出す必要があるだろう。

 本番まで残り2年を切った今、混雑解消に向けた有効策は見いだせるのか。組織委で大会運営の計画づくりに携わる一人は「組織委は東京都など行政からの出向者と、民間企業からの出向者で構成されている。出身母体ごとに仕事の進め方やスピードが違い、様々な施策が停滞している」と話す。人材の多様性は、本来なら組織の強みになるはず。今後は、多様な知恵をどれだけオープンに取り込めるかが問われる。

 組織委の外からは、具体的なアイデアを提示する動きが出ている。東京海洋大学の渡部大輔准教授が提唱するのは、競技会場の最寄り駅への人の集中を避ける案だ。開会式や陸上競技に使われ、最大8万人を収容する新国立競技場の最寄りは、徒歩数分のJR千駄ケ谷駅、都営大江戸線の国立競技場駅など。だが「これらの駅に利用が集中すると容量オーバーは確実」(渡部准教授)。

 代わりに渡部准教授が提案するのが徒歩20~30分の新宿駅の活用だ。少し歩くことになるが、その間にある新宿御苑という公園を通過するルートを設定。歩道に密集することなく、園内をゆったり歩けるようにする。広大な土地があるのでセキュリティーチェックを実施してから競技場に誘導することも可能だ。試算したところ、混雑緩和の効果を確実に見込めるという。