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 遅れる電車、届かぬ宅配便……。東京五輪で交通網がパンクする懸念が高まっている。平時から混雑する首都に、五輪関連の約1000万人もの移動が加わるとどうなるか。観光立国を目指すうえで避けて通れない課題だが、対策は遅れている。

(日経ビジネス2018年10月8日号より転載)

 2020年8月某日の朝。自宅から東京・大手町にある会社に向かう僕は、思わずため息をついた。最寄り駅で乗り込んだ電車がいつまでたっても出発しないのだ。車内放送は「混雑のため車両間隔を調整しています」と繰り返すばかり。このままでは確実に遅刻だろう。

 すべてオリンピックのせいだ。ニュースでは「不要不急の外出は控えて」と連呼している。道路輸送が滞ってコンビニの棚は空っぽ。ネット通販も配送利用に制限がかかっている。平和の祭典を開催する意義は理解している。けれど日常生活にこれだけ我慢を強いられると、さすがに不満も募るよ……。

(写真=DAJ/Getty Images)

 デタラメな空想ではない。東京五輪・パラリンピックが近づくなか、大会期間中の混雑が大きな課題として浮上している。20年夏は、普段から混み合う過密都市に大会関係者や観戦客など約1000万人の往来が加わる。政府は通勤による混雑を避けるため、この年に限って体育の日など複数の祝日を大会前後に移す対策を決定した。だが、その場しのぎの弥縫策にすぎない。

 人口減少で国内消費が頭打ちとなるなか、訪日外国人需要の獲得はますます日本経済のカギを握ることになる。リピーターとして再訪し、日本にお金を落としてもらうためには、五輪を契機に東京を訪れた外国人客を失望させられない。東京五輪における混雑解消の成否は、今後本格的に観光立国を目指す日本にとって大きな意味を持つ。

競技場周辺だけでなく、 ターミナル駅も混雑する
●中央大・田口教授のシミュレーション
注:朝のラッシュ時に通勤客と観戦客の移動が重なった場合、駅構内にいる乗客が普段よりどれだけ増えるか算出