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 「アイデアはあったが、起業に関する知識は何もなくて……。1人では難しかった」。16年1月に創業した宇宙関連のスタートアップ、インフォステラ(東京都渋谷区)の倉原直美CEO(最高経営責任者)はチーム作りの重要性を強調する。

(写真=アフロ)

 手掛けるのは人工衛星と通信する地上アンテナのシェアリングサービス。小型衛星の打ち上げ数が増える中、課題になりつつあるのが受信アンテナの不足だ。受信できるのは衛星が真上に来た数十分間なのに建設コストは約1億円もかかるからである。

 インフォステラはここに目を付けた。設置済みアンテナをシェアして有効活用すれば、新たな設備投資が不要になり既存設備の稼働率も上がる。アンテナ不足の解消だけでなく、通信費も下げられる。倉原氏は、「最も安いプランでは、既存のアンテナの運用会社に払う場合と比べて通信コストは10分の1になる」と自信を見せる。

倉原直美 氏
(写真=加藤 康)

インフォステラCEO

創業:2016年1月
事業概要:地上の衛星アンテナのシェアリングサービス

 子供のころから「宇宙好き」だった倉原氏。理系を選択し、大学では衛星の研究に没頭した。大学や研究機関で衛星の研究に携わる中、アンテナが有効活用されていないことに疑問を抱いた。

 「ビジネスになるかも」。漠然とした思いを抱えるが、利用する立場の研究機関では事業化そのものが困難だった。ならばと、衛星管制システム世界大手の日本法人に転職したが、外資企業の日本法人では新規事業は遅々として進まない。「もう自分でやるしかない」。目的達成にむけて倉原氏は迷うことなく起業を選んだ。15年春のことだ。

飲み仲間だったCOO

 決断後に直面したのがチーム作りの課題だ。宇宙関連の研究職というキャリアを捨てて、スタートアップに飛び込む人はほとんどいない。「具体的な事業計画がなく、興味を持ってくれても最終的には断られる日々だった」と倉原氏は振り返る。

 2人の共同創業者は、意外なところで見つかる。一人は「14年ごろに宇宙好きの飲み会で知り合った」(倉原氏)という石亀一郎COO(最高執行責任者)。EC(電子商取引)関連のスタートアップでの経験や、宇宙関連の情報サイトを立ち上げた実績がある。偶然再会した2人は意気投合、起業の計画はトントン拍子で進んだ。

 もう一人の共同創業者である戸塚敏夫氏(社外取締役)は、無線機メーカーのトップで研究職時代からの相談相手。「実は決断を待ってくれていたようだった」(倉原氏)こともあり、起業を報告すると二つ返事で社外取締役として参画。スタートアップを熟知する石亀氏に、経営ノウハウが豊富な戸塚氏。倉原氏の情熱に、2人の経験が加わりインフォステラの「チーム」は完成。16年秋に500スタートアップス・ジャパンなどから6000万円を調達した。

 17年9月には欧州エアバスやソニー傘下のCVCから8億円の出資を受けるなど注目度は日増しに高まる。今期中にサービス開始予定で、ようやくスタートラインに立ったと言える。

 スタートアップにとって「チーム作り」はある意味で、事業アイデア以上に重要と言える。500スタートアップスのライニー氏は「シード(創業初期)段階での事業アイデアは失敗する可能性が高い。投資判断として重要視するのは、事業モデルを修正しながら発展させていける人、そしてチームだ」と話す。

 もちろんセオリー通りのチームを作っても必ずうまくいくわけではない。技術者は経営に詳しいパートナーを探すべきという「常識」にとらわれて一度は失敗した起業家もいる。

広津崇亮 氏
(写真=小林 淳)

HIROTSUバイオサイエンス社長

創業:2016年8月
事業概要:線虫嗅覚センサーを利用したがん検査装置の開発

 がん探知犬ならぬ、がん探知線虫を作れないか──。そんな発想から起業したのが、HIROTSUバイオサイエンス(東京都港区)の広津崇亮社長だ。

 がん探知犬は、特殊な訓練で尿などに含まれる微量の「がん特有の臭い」を発見できる犬。血液検査よりもがんの検出率は高いが、1頭の育成に数百万円のコストが掛かるうえ、犬の集中力の関係で検査も1日約5回までしかできない。当時、広津氏は九州大学で線虫という体長約1mmのひも状微生物を研究していた。課題を知り、線虫の嗅覚は非常に鋭いため、「犬の代わりに線虫を使えないか」と考えた。

 広津氏の読み通り、線虫もがん患者の尿の臭いを判別できることが分かった。実用化すれば100円程度の低コストでがんを発見できるとして注目を集めた。15年、広津氏は福岡県で1度目の起業に踏み切る。

起業の「常識」が裏目に

 ところが、その起業はたった1年で失敗に終わった。「起業に関する“常識”を重要視しすぎた」と広津氏は原因を分析する。研究者が起業する場合、社長はビジネスに詳しい人間に任せるべきという常識に従い、広津氏は裏方に回ったのだ。

 これが失敗だった。広津氏と当時の社長は、経営に対する考え方が大きく違った。広津氏の目には、当時の社長は線虫の研究開発を成長に向けた投資ではなく、コストとしか見ていないように映った。最終的に、会社から徐々に人が去り事業は終了。「1年間かかってもまるで成果が出なかった」と広津氏はこぼす。

 この教訓を生かし16年8月の2度目の起業では、自らが社長になった。「障壁を避けて経営できる体制がようやく整った」と広津氏は語る。

 日立製作所との共同研究が始まるなど成果は出つつある。研究者時代から日立製作所の研究者と交流はあったが、1度目の起業ではガバナンスの課題もあり、踏み込んだ協業には至らなかった。「現在の会社の体制が整ったことで、共同研究を始めることができた」と広津氏。両社は20年1月の実用化へ動き出している。

 チーム作りが重要なのは創業メンバー選びだけではない。資金調達をして勝負に出るタイミングで壁にぶつかる起業家も存在する。勝負に出るタイミングで壁にぶつかる起業家も存在する。Q&Aサイトの草分け的存在であるオウケイウェイヴ創業者の兼元謙任会長はその一人だ。