モノを所有しない傾向が強まったとはいえ、若者の消費意欲があらゆる分野で低下しているわけではない。スマホやパソコンで味わえない音楽などのライブは逆に人気が高まっている。

 「ライブにはよく行く。今年は15万円ほど使っている」。ウェブデザイン会社に勤める都内の20代の男性は、普段あまり買い物をしないが、音楽ライブや旅行などへの出費は惜しまないという。コンサートプロモーターズ協会の調査によると、こうしたライブイベントの市場は17年に3324億円と、10年間で実に3倍に膨らんでいる。

「体験」を売ることがカギに

 モノを売る企業も「体験」を意識している。家具大手の「ニトリ」の売り場では、机やベッドなどを商品カテゴリー別に並べていない。「一人暮らしの部屋」などライフスタイルに合う部屋を再現する形で商品を訴求している。客は家具そのものではなく、その家具がどんな生活を実現してくれるかに関心があるからだ。

 ここまでミレニアル世代の動向を中心に見てきたが、リーマン後の10年に顕著になった消費の変化は、若者に限らず幅広い層に影響しているものも多い。体験に関しては、シニア層に強い通販のジャパネットたかたがクルーズ船ツアーの販売を開始。モノを売るモデルからシフトしている。

 消費の対象はモノ自体ではなく、それを利用して得られる利便性や体験。企業はそれを理解した上で経営判断することが求められている。

全体的な消費も節約傾向が強い
●実質消費支出指数(全世帯、2007年=100)
注:総務省「家計調査」 を基に作成
(写真=ASU/amanaimages)
証 言
兵庫県立大学経営学部
川上昌直教授
企業が勝ち逃げできる時代は終わった

 リーマンショック以降、可処分所得が減った人々がより賢く消費するようになり、「所有」から「利用」にシフトするようになっている。その象徴といえるのが「サブスクリプション」型のビジネスモデルだ。これは企業と消費者が、ある商品に対して一定期間、利用の契約関係を結ぶものを指す。定額制の動画見放題サービスや様々なシェアリングサービスは、最初に利用登録をするので、サブスクリプションモデルに該当する。

 これは必ずしも消費意欲が落ちているということではない。本当に「所有」したいモノはちゃんと買い、それ以外をサブスクリプションで「利用」するといった割り切りが明確になっているのだ。何を所有するモノとして選ぶかはもちろん人により異なるが、メンテナンスの手間やコストがあまりかからない、ハイエンドのブランドのスニーカーや、数十万円以上する高級腕時計などの販売は好調だとされている。

 企業としてはサブスクリプションモデルは商品を安価な初期費用で提供できるため、消費者にアプローチしやすい。定額制の商品であれば、いったん契約すれば、安定的な収入を見込める。また、契約期間中に顧客の利用データを集め、商品の改善に生かすことも可能になるなど、企業にとってのメリットは多い。

 しかしサブスクリプションモデルの拡大により、企業と消費者の「力関係の逆転」が起きていることも見逃せない。

 従来はモノを売る際には、消費者より企業の力が強かった。企業が莫大な費用をかけて宣伝し、消費者は購入するまで商品についてよく分からない状態だった。その結果、消費者が宣伝文句に引かれて商品を買ったところ、失敗するという苦い経験をこれまで散々してきた。

 ところが、サブスクリプションモデルでは主導権が消費者に移る。商品の利用を始めるコストが低くなった結果、満足できなくなった時点で、消費者側が契約関係を解消したり、他社商品に乗り換えたりしやすくなるからだ。消費者が賢くなるなか、商品を売り切って終わり、というビジネスモデルは成り立ちづらくなってきている。企業は勝ち逃げできる時代ではなくなった。これからは消費者を持続的に満足させる努力が欠かせなくなる。(談)