野村HDの計算違い

 証券も同様だ。リーマンショック後、個人の金融資産は1800兆円とむしろ増えたが、その約半分が依然現預金に滞留している。目先の手数料獲得に固執する営業慣習から抜けきれず、投資人口の増加を阻む。投資余力のある顧客層は高齢化しており、事業承継や相続など、様々な悩みを抱える。従来型のサービスだけでは対応できない限界も見え始めている。

 もちろん、リーマンショックを機に攻めに動いたところもある。野村ホールディングスは、08年に破綻したリーマンの欧州、アジア部門を買収した。

 外資系金融機関ならではの迅速な意思決定力、市場環境に応じた新商品の開発力、そしてグローバルな顧客網を手に入れれば、日本の金融機関が自力では達成できなかったであろう海外展開もしやすくなる。リーマンショックは日本の金融機関が世界で戦う足掛かりを手に入れる千載一遇のチャンスでもあった。リーマン破綻後、1週間で「商談」を決めた野村の素早さは当時、市場の注目を集めた。

 だが、09年以降も米国債の格下げや欧州債務危機など世界のあちこちで金融不安はくすぶり続けた。「リーマンショックの後遺症、とりわけソブリンリスクが、買収したリーマン欧州部門の逆風になったのは否めない。野村にとって混乱が長引いたのは想定外だったのでは」。元リーマン日本法人社長の桂木は野村の「不運」を嘆く。

 買収で引き継いだ人員約8000人の高額報酬も重荷となった。17年3月期に7年ぶりに海外事業が黒字になったが、16年に欧米の法人部門で1000人規模のリストラを実施した影響が大きい。「割安な買い物だったが『隠れたコスト』の影響を重要視していなかった」。ある野村OBはつぶやく。

 銀行では三菱UFJフィナンシャル・グループがリーマン破綻直後、モルガン・スタンレーに90億ドルを出資した。米国の名門を持ち分法適用会社とすることで、投資銀行業務を強化。18年3月期では連結最終利益9896億円のうち、1718億円がモルガン・スタンレーの利益貢献分だった。

 こうした攻めに出たのはごく一部の金融機関にとどまる。守りから反転のきっかけをつかめないまま緩慢な衰退に至るところが多い。金融庁の有識者会議がまとめた報告書によると、東京都を除く46道府県のうち、地方銀行が1行しかなくても存続するのが難しい地域が23県もあるという。高い収益力が評価されていたスルガ銀行は、シェアハウス向けの不適切融資を続けてきたことが明らかになった。3メガバンクは昨秋、収益構造の改革を目的に、店舗や業務量、人員の削減を発表した。

 人口減という構造問題とフィンテックによる侵食に直面する日本の金融。かつてのバブル崩壊を生き延びた経験でリーマンショックを乗り切ったものの、それが守りに拍車をかけたという皮肉から脱することができるのだろうか。

=文中敬称略(武田 安恵、藤村 広平)