ドライブスルーでお焼香

高齢者や障害者向けに、車に乗ったまま焼香ができる斎場がオープン。会場に面した専用通路に車を横付けし、香炉を受け取る(写真=林 安直)

 墓ばかりが重荷なわけではない。別の重荷の正体が、葬式の変化に表れ始めた。長野県上田市に昨年12月、車上で焼香できる「ドライブスルーシステム」を備えた斎場が完成した。専用道路に面した会場の壁に窓を設置。弔問客はタブレット端末で記帳し、車上焼香用の香炉を受け取る。車内でボヤが起きないように、灰の代わりに電熱線でお香を加熱する特注品だ。弔問客は車上から祭壇を見たり、遺族に声をかけたりもできる。

 斎場を運営するレクスト・アイ(同市)によると、足の不自由な高齢者や障害者は、たとえ焼香をして香典返しを受け取るだけでも、家族や職員の介助を受けながらでは30分以上かかってしまう。しかし、車上焼香なら5分程度で済ませられる。約半年間で10人程度の弔問客が利用したという。

 当初はシステムの開発について「弔いの気持ちを軽視しているのではないか」などと批判の声も上がった。それでも実現にこぎつけられたのは「世間体と見栄を重視して形式に縛られていた葬式が、より故人の希望や遺族の気持ちに即した形に変わってきているから」と同社の久保田哲雄専務は話す。

葬送を仕切る余裕がない

出生数100万人、死亡数130万人の多死時代
●人口動態総覧の年次推移
出所:厚生労働省「平成29年 人口動態統計の年間推計」

 葬送が変化を強いられている第1の要因として、「多死社会」の到来がある。厚生労働省によると、05年に出生者数を死亡者数が初めて上回り、17年推計では年間の出生者数94万人に対して死亡者数は134万人と急増した。今後も、送られる側の数は増え続ける。

 第2の要因は、家族構成の変化だ。葬送の現場作業を主に取り仕切っていたのは家庭の専業主婦というケースが多かったが、1997年には共働き世帯が専業主婦世帯を上回った。地方の大家族から都市部の核家族へと家族形態も移り、高齢化に伴い独居も増えている。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には高齢者を中心とした単身世帯が全世帯の4割を占める。残された遺族が高齢で病気がち、子どもは多忙な共働き、などというケースも増え、葬式を身近な家族だけで担うことは、事実上困難になりつつある。

 「葬式のコンパクト化」も、こうした変化の帰結として顕在化している。葬式業者を対象とした、公正取引委員会による16年の調査では、減少傾向にある葬式の種類について、7割の業者が、生前親交のあった人が出席する伝統的な「一般葬」を挙げた。一方、親族や友人など親しい関係者だけが出席する「家族葬」が増加傾向にあると5割の業者が回答している。通夜や告別式をせずに火葬する「直葬」が増えたとの回答も3割近くに上る。

「家族葬」と「直葬」の選択が増える
●葬式の年間取扱件数に占める種類別の増減傾向
出所:公正取引委員会「葬儀の取引に関する実態調査報告書」(2017年3月)

 大企業も動き始めた。コンパクト化のニーズをいち早く捉えたのが、09年に葬式の仲介サービスに参入したイオンだ。

 契約に至る顧客の半分が、同社の相談や終活セミナーを受けて、事前に会員登録をしているという。普段から頻繁に訪れるGMS(総合スーパー)を足場にした同社の営業活動は「終活」をより身近にした。来店客の中心は60歳前後の女性だ。「終活を始める人は、家族の負担を嫌ってシンプルなプランの葬式を選ぶ傾向が特に強い」と葬式子会社、イオンライフ(千葉市)の邉見英二営業部長は話す。