まず大学は、本命企業の内定が出たら、すぐに他社に内定辞退の意思を伝えるよう学生を指導することだ。遅くなればなるほどトラブルを深刻化させることになる。

 また、法政大学キャリアセンターで多くの相談を受ける内田貴之課長は、「内定辞退の乱発を防ぐには、安易に内定を受諾させないことも大切」と話す。内田課長の場合は、どの内定先を選ぶかで迷っている就活生にはとことん相談に乗り、やりたい仕事を明確にしてそのイメージに合致する企業からのみ内定を受け取るようにアドバイスしている。

 「希望の業務やキャリアプラン、勤務地や給与面への希望、残業時間の多さなど、仕事への希望を切り分けて整理してあげることで、迷いない内定先選びができるようになる」(内田課長)

 さらに、1人の内定辞退が企業や人事担当者にどれほどの迷惑を及ぼすかをきちんと教えることも重要だ。

内定辞退を言われてからでは引き留められない
●内定辞退を決断する就活生の気持ち
(写真=sapannpix/Getty Images)

 このように内定辞退トラブルを防ぐために大学が打てる策の共通点は、要は、「学生の誠意に訴えること」だ。それに対し、企業向けの内定辞退防止策の要諦を一言で言えば、「企業に対する学生の熱い思いを冷まさせないこと」となる。

 就職に限らず何事も一度冷めた気持ちを再び熱く燃え上がらせることは難しい。「内定辞退の意思表示をされてから企業にできることは少ない。だからこそ、その人材の採用を決断した時点からすぐに防止策を講じる必要がある」と採用支援サービスを手掛けるアイデムのマネージャー、佐川好司氏は指摘する。

 佐川氏が推奨するのが、「評価のフィードバック」だ。

 内定を出した後も学生とコミュニケーションの場を持つ企業は多いが、そうした場でその学生を採用した舞台裏をあえて本人に開示するのである。例えば、グループディスカッションや1次面接、最終面接といったプロセスごとに、面接担当者がどのような評価をしてその学生を通過させたかを細かく伝える。

 「この会社は自分をしっかり評価してくれた」と、学生に実感してもらうのが狙いだ。実際に内定者へ評価フィードバックを実施しているマネーフォワードは、「学生に企業の誠意を伝える上で非常に有効な方法で、内定辞退の防止にも一定の効果を発揮していると思う」とこの手法を評価する。

 一方、星野リゾートは、選考をしている段階から「自社の魅力」を入念にアピールする、という手を打つ。学生たちは同社に魅力を感じているからこそ入社試験を受けに来ているわけで、一見、無駄な作業に映るがそうではない。

 旅行業界における星野リゾートの存在感、強さの秘密、安定した業績に今後の成長性……。そうした魅力を繰り返し聞かされながら選考過程を勝ち抜いた学生は、多くの場合、内定を受け取る頃にはすっかり星野リゾートのファンになっている。「選考の過程で自社の強みをインプットするのも有力な内定辞退防止策」と採用コンサルタントの谷出正直氏は話す。

第三者に背中を押させる

 また、一風変わった防止策として、一部の採用支援会社が“裏メニュー”として用意している「内定受諾説得サービス」を活用する方法もある。

 通常であれば採用支援会社の仕事は人材を企業に紹介した時点で終了する。しかしこのサービスをオプションで追加しておくと、支援会社は紹介後も学生と適度に接触。雑談をしながら、紹介した企業の安定性や成長性などを第三者の視点からそれとなく評価し、学生が内定を辞退しないよう、あるいは他の企業の内定をもらわぬよう誘導するのだ。

 「もちろん嘘は言えないし、ネガティブ情報はきちんと伝える。それでも第三者に背中を押される効果は大きいようで、内定辞退の確率は経験上大きく減る」とある採用支援会社の社員は打ち明ける。

 6月に活動を始めた学生たちに企業が内定を出すのも、その辞退に頭を悩ませるのもまだ先の話ではある。が、内定辞退への対応が産業界の一つの課題となる中で、企業も大学も、対策を打ち出すのに早すぎるということはない。