利用者数なら70万人、市場規模では1兆円を超えるプラス──。政府の強力な後押しを受け、短期間に急成長している「産業」が保育だ。推進役となるのは企業による参入。保育は、どう変わるのか。

(日経ビジネス2018年6月11日号より転載)

 セブン&アイ・ホールディングスやビックカメラ、J.フロントリテイリング、ゼンショーホールディングス、東京急行電鉄──。これら名だたる大企業に共通するのは、過去3年の間に保育園事業に参入している点。いまのところ社員の保育需要に応える目的の企業が多いが、待機児童の解消という社会ニーズの大きさを映している。今後も本格参入が増えそうだ。

 「保育園落ちた日本死ね!!!」。2016年初頭に注目をあびた匿名ブログの言葉が象徴するように、保育園不足の問題は、日本社会の重要課題としてスポットライトを浴びている。将来への不安から、少しでも家計を助けようと働く女性が増加。政府は13〜17年度に「待機児童解消加速化プラン」を実行、18年度以降も「子育て安心プラン」を計画。保育の拡充に向けて、兆円単位の予算を計上している。

 こうした施策の結果、みずほ銀行によると、全国の保育園の利用児童数は20年までの約10年で70万人増加するという計算になる。自治体が拠出する公費と利用者の負担額をあわせた園児1人当たりの保育費用をおよそ月12万円と推計し、これを前提に試算すると、10年間で1兆円を超える“新市場”が、保育サービスの分野に生まれていることになる。

10年間で10倍近く増加
●株式会社が設置した保育園数の累計
出所:厚生労働省資料

 保育園は長らく、市区町村や社会福祉法人によって運営されてきた。00年には株式会社による設置・運営が解禁されたが、事業体によって補助金交付額に差があることなどが障壁となり、参入は進んでこなかった。制度が改正され、ようやく名実ともに参入への道が開かれたのは15年。厚生労働省によると、株式会社が設置した保育園は16年4月に全国で1236園。08年に比べて8倍以上に増えている。

 女性の社会進出が加速していることで、量の不足ばかりが叫ばれる保育業界。だが0〜5歳を“主要顧客”とする保育園は、人口減少と少子化の影響を真っ先に受けるため、保育園が余る時代は案外早く訪れる。

「量」の整備は着実に進んでいる
●0〜5歳人口と、保育園利用児童数の推移
出所:国立社会保障・人口問題研究所「将来推計人口」、厚生労働省資料。2018年以降の利用児童数はみずほ銀行推計

保育園も選別される

 みずほ銀行証券部・利穂えみり氏の推計では、政府が掲げる目標の通りに保育園を拡充すると、20年における保育の受け皿の供給量(現在の利用児童数+今後の拡充分)は282万人に達する。一方、女性の就業人口や出産後も仕事を続ける女性の増加を考慮した保育需要は約280万人と推計され、「拡充される供給量でおおむね吸収できる水準となる」(利穂氏)。

 すでに地方によっては保育園は十分に足りている。厚労省の調査によると、17年4月1日時点の待機児童数は2万6081人に上るが、そのうち72.1%を占めるのが首都圏、近畿圏の7都府県と指定都市・中核市だった。一方、北陸3県や青森県、長野県など、人口が減少する地方では、待機児童数がゼロの地域もある。