車検チェーン大手のホリデー(大阪市)の工場だ。ここでは5台の自動車を点検・整備できるスペースを持つ。利用客が来店すると、まず、車の利用頻度や今後どれぐらい乗り続けるつもりかをヒアリング。整備士は工場内で交換する必要のある部品を見せながら、利用客にその判断を仰ぐ。

 交換する部品の費用や、工賃、必要な作業時間もその場で説明する。ホリデーはこうした「立ち会い車検」を売り物にして加盟店を増やしてきた。同社の松川陽一社長は、「不必要な交換で高くつくという、顧客の不信感を拭い去りたい」と語る。

 利用客に的確に説明できる整備士を育成するには時間もかかるし、手間もかかる。それでもこうしたサービスが定着すれば、作業内容の透明性は高まり、“過剰整備”が減ることで料金も下がるかもしれない。

自動車整備収入激減の衝撃

 ただ、競争原理が働く前に、市場を縮小させかねない事態も迫っている。利権を崩す3つ目の波は技術革新だ。

 自動車市場ではガソリン車からEV(電気自動車)へと、電動化のシフトが進み始めている。AI(人工知能)の技術開発も進み、自動運転車の実用化競争も激しくなっている。こうした動きが「車検のあり方を変える」と車検専門店の全国チェーンを展開するコバック(愛知県豊田市)の小林憲司社長はみる。

 EVはガソリン車に比べて、圧倒的に部品点数が少ない。交換部品もそれだけ少なくなることを意味する。自動運転車が普及すれば、交通事故が減るかもしれない。そうなれば、整備や修理にかかわるビジネスは確実に減る。

自動運転の普及で2030年までに半減
●米国の自動車整備業界収入の将来見通し
自動運転の普及で2030年までに半減<br /><small>●米国の自動車整備業界収入の将来見通し</small>
出所:KPMG

 これは世界的な流れだ。国際会計事務所のKPMGは、米国では15年に300億ドル(約3兆2400億円)弱の自動車整備業界の収入が、30年には52%減り、40年には76%減少するとの見通しを立てている。「この傾向は日本でも同じ」とKPMGコンサルティングの奥村優パートナーは指摘する。

 何よりも、EVや自動運転車はソフトウエア制御による機能が増え、点検するノウハウが大きく変わる。日産自動車がEV「リーフ」の販売を10年に始めたときも、販売店に対して、EVならではの整備の仕方を指導する必要があった。いずれにしても、今後は整備士が会得すべきノウハウや知見はどんどん増えていくことは間違いない。

 国土交通省も対応に動き始めた。昨年12月には「車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法のあり方検討会」を立ち上げ、自動運転技術の進展を考慮に入れた車検がどうあるべきかの検討を始めた。

 もっとも、根本的な疑問は置き去りにされている。技術の進化で、自動車の故障が減り、電動化で機械部品の減少による部品の磨耗や消耗が少なくなるのであれば、国が車の安全性を保証するような車検制度はそもそも必要なのか、という疑問だ。少なくとも、現状の新車登録後3年、以降は2年ごとという頻度での車検の有用性は薄れてはいないだろうか。

 車検制度が日本の自動車社会の安全を守ってきたことは確かだ。だが、その法的に義務付けた世界でも珍しい車検制度が、自動車保有者に金銭的な負担を必要以上に強いてきた現実がある。 日本総研の佐藤氏は「安全を守るには、一定の点検制度はこれからも必要だ。ただし、今の車検制度は複雑すぎる。安全運転支援システムや自動運転車の普及をきっかけに、制度の見直しや簡素化を検討するべきではないか」と指摘する。技術革新をはじめとする、変化の波が押し寄せている今こそ、安心・安全の自動車社会の確立と、その社会を支える、誰もが納得する負担のあり方を考える好機にしてもいいはずだ。