車検ビジネスは自動車メーカーにとっても手放せない。その現実を露呈したのが、昨秋に日産自動車やSUBARUで発覚した無資格者による完成検査問題だ。

 完成検査の内容は、車検を通すかどうかの保安基準に基づいている。つまり、車検と同じ作業を自動車工場の最終検査工程でしていることになる。

 車検ではすでに見たように、国が認めた工場と検査員が検査する。だから国は自動車メーカーにも資格を持った従業員が検査するよう求めている。にもかかわらず、日産やSUBARUは無資格者に従事させていたことが、問題になった。

 ただ、自動車メーカーから見れば、工場での完成検査は「ワイパーを作動させるなど、誰でもできるような検査」(業界関係者)という。国が求める有資格者による完成検査は「生産効率を下げる作業」と捉えがちだ。もし、そうであるなら、制度を変えるよう国に求めればいいが、実際にはそうしたことはしない。完成検査の否定が、車検制度の存在を否定することになるからだ。

 安全を担保する制度がなくなることを恐れてのことではない。車検制度がなくなれば、自動車メーカーが得る、利幅の大きい補修部品収入が減る。さらに深刻なのは「自社系列のディーラーの整備収入や補修部品収入が激減すること」(自動車アナリスト)。自動車販売網が崩壊しかねないのだ。

 巨大な車検ビジネスには「官」も巣くう。車検費用に含まれる重量税や自賠責保険料、印紙代の「法定費用」が、彼らにとっての「商機」だ。

車検だけで2兆円の市場規模を誇る
●作業別の整備売上高
車検だけで2兆円の市場規模を誇る<br /><small>●作業別の整備売上高</small>
出所:日本自動車整備振興会連合会
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 例えば重量税の支払いに使う印紙。これを売りさばくのは各都道府県にある「整備振興会」という団体で、印紙販売の手数料を受け取っている。指定工場で車検を受けた際に発行される「保安基準適合証(保適証)」も、整備振興会の売り上げとなる。

 国に代行して業務をしているのだから、当然、人件費を賄うための料金と考えることはできる。だが、この値段は、競争原理もなく、「言い値」で決められているといえなくもない。ある整備事業者は、「大きな振興会だと保適証などの販売で年数億円の利益を得ている。これらは項目に出てこないが車検代に含まれる」と指摘する。

“利権”を崩す3つの波

 必要かどうかも分からないまま、一般消費者が迫られる部品交換や不透明な車検の料金体系。長い歴史のなかで、積み上げてきた、整備工場や自動車販売店、メーカー、行政による利権構造が見え隠れする。

 ただ、こうした既得権益層も、このまま利権を貪り続けられる保証はない。3つの波が押し寄せているからだ。

 1つ目は、人手不足。他のサービス業と同様に、整備業界でも人は集まりにくくなっている。「2つの工場はとても維持できない」。本社工場に集約した茨城県の整備会社経営者はため息をつく。業界団体の2017年度の調査によると、整備要員の平均年齢は45歳(自家除く)。5年前の43.3歳からじわじわ上昇している。事業継続も難しくなりつつあり、「外国人労働者に頼るしかない」(業界関係者)との声も漏れる。

 2つ目の波は不透明な商習慣を改善しようとする動きが「身内」から出てきていることだ。

 兵庫県神戸市の整備工場。持ち込まれた乗用車を前に、整備士が利用客に説明を始めた。「ここの変速機から少し油がにじんでいるのが分かりますか。この程度なら車検は通ります。あまり乗られないようなら、今回は部品を交換する必要はないですが、どうしますか」

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