検査基準は「保安基準」とも呼ばれ、1951年に制定された「道路運送車両法」に基づいている。国が認めた場所で、資格を持つ検査員しか、検査できない。

<span class="fontBold">整備工場の車検ライン。設備や資格を持つ検査員がいるなど一定の基準を満たしたところは「指定工場」として、その場で車検業務もできる</span>
整備工場の車検ライン。設備や資格を持つ検査員がいるなど一定の基準を満たしたところは「指定工場」として、その場で車検業務もできる

 制度が設けられた当初は各地にある運輸局の「車検場」に持ち込んで車検を実施していたが、自動車の保有台数の増加に伴い、民間にも一部開放された。それが、設備や技術、管理能力があり、資格を持つ検査員がいると国が認めた「指定工場」。全国に9万超ある自動車整備工場のうち、約3分の1がこうした指定工場だ。

 95年の道路運送車両法改正で、整備工場での点検・整備を受けずに、直接、自分で車検場に持ち込む、いわゆる「ユーザー車検」も可能になった。ただ、車検を確実に通すために、まずは整備工場に車両を持ち込むケースが多い。道路運送車両法ではドライバーに定期点検を義務付けており、この点検と車検をセットで実施するのが一般的だ。

車検を受ける前の点検や整備で、実車の部品を見ながら部品の状況や交換すべきかを丁寧に説明してくれる整備工場もある

 戦後間もない頃に確立した日本の車検制度。当時は今より技術的に未成熟な自動車が走行しており、車道で故障を起こすことも少なくなかった。国土が狭く、道路も狭いなかで、自動車が立ち往生すれば、経済的な損失になる。そんな問題意識から、国がお墨付きを与える車検制度は生まれた。

米国では明確な作業単価

 そうして増えた日本の自動車の保有台数は今や8000万台超。毎年2000万台以上の自動車が車検を受けている。日本自動車整備振興会連合会によれば、これだけの数の車両の点検・整備を担うために、50万人以上が働き、総整備売上高は年5兆円を超す市場に育った。

 もっとも、これだけ規模が膨らんだ裏には、すでに見てきた不透明な料金体系があるのは確かだろう。

 海外ではそもそも日本のような複雑な車検制度はない。ドライバーは整備・点検の義務を負うが、その料金体系は日本より透明性が高いことが多い。例えば、米国では各事業者が作業単価を明確に打ち出しており、「利用客はそれを比較した上で、どこに整備を依頼するかを決められる」(自動車整備業向けのコンサルティングを手掛けるティオの山本覚氏)という。

 日本はどうか。業界では作業ごとの標準作業時間を決めているが、それにかけ合わせる作業単価は事業者自身が決めている。利用客がその単価を知る機会は乏しい。

 最近は新車や中古車を販売する際に、「向こう何回分かの車検代を車のローンに滑り込ませる販売店もある」と前出の日本総研の佐藤氏は話す。利用客にとっては、点検・整備の仕組みがあまりにも複雑で、何が適正な価格水準かの判断を働かせにくい。そうした状況を利用して、整備事業者が収益拡大を図ってきたともいえる。

 もっとも、販売店や整備工場が整備ビジネスに活路を求めざるを得ない事情は確かにある。日本の新車販売台数は500万台強と、少子高齢化を背景に1990年のピーク時の3分の2程度に減ってしまった。当然、ガソリン需要も減り、自動車ディーラーやガソリンスタンドの収益は厳しさを増す。部品交換にうまみのある車検ビジネスは収益確保の貴重な機会なのだ。

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