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神経を別の筋肉に移植

TMRの技術を応用し、肘から上を切断しても筋電義手を使えるようにする研究も進む

 多くの筋電義手は、手首から先を失った場合を想定して開発されている。前腕の筋肉が残っていれば、そこから電気信号を感知できるからだ。では、肘より上の上腕部で切断した際はどうするのか。横国大の加藤龍准教授は、そのような人が使用できる上腕筋電義手の研究に取り組んでいる。

 脳から出ている神経は、「手指を動かす神経」「手首を動かす神経」などに分かれている。仮に指や手首を動かす筋肉がなくなってしまっても、動かす神経は一部残っている。上腕筋電義手ではこの神経の電気信号を操作に利用するのだが、神経の電気信号はそのままだと弱すぎて使えない。そこで、「Targeted Muscle Reinnervation(TMR)」と呼ばれる外科手術を応用する。TMRは特定の神経を選り分け、別の筋肉に縫い合わせる手術だ。

 手指を動かす神経を移植し、その筋肉から電気信号を捉えることで義手を操作する。ただ、手首だけを補う場合より義手部分が増えるため、全体として重くなりがちだ。加藤准教授は軽量化などの課題を解消し、3年後までに実用化したい考えだ。

 世界で初めて筋電義手を実用化したのは、旧ソ連の研究機関だとされる。登場から50年以上が経過し、徐々に技術が進化してきたが、健常者と同じスピードで物をつかんだり、繊細な手作業をしたりするレベルにはまだ遠い。ただし、視線の動きを義手の制御に使う技術や、義手に搭載したカメラが対象物の形を捉えて自動的に最適な持ち方をしてくれる技術など、SFの世界のような研究も進められている。

 横国大の加藤准教授は「筋電義手は、3本目の腕として使うなど人間に新たな身体を与える技術としても応用できるのではないか」と話す。筋電義手が障害者のサポートだけではなく、全ての人間の可能性を広げるツールになる日が来るかもしれない。