抗体の作り方で一般的なのは、マウスの体内で有用な細胞を増殖させる手法。ただ、マウスは世話に手間がかかり、生産効率が悪い。動物愛護の観点からも問題がある。ハムスター由来の細胞に遺伝子を組み込んで培養タンクで増やす手法もあるが、先行投資が必要で、コストが高くつく。

新産業の創出と地域振興につなげる
●国が描く「スマート養蚕」の一例

 ここに目をつけたのがリムコだった。カイコの「タンパク質生産機能」は、生産性や純度で従来の方法を凌駕する。これまでは様子見する企業が多かったが、日東紡の出資は追い風となる。リムコの小河晋悟社長は「遺伝子組み換えカイコを実際に活用する流れが加速する」と期待を込める。

遺伝子組み換えで養蚕業復活

 カイコは幼虫時にシルクの糸を吐いて繭を作る昆虫だ。野生のクワコが「品種改良」され、長い年月をかけて今の姿になった。色は白く、羽をバタつかせるが飛ぶことはできない。糸を作り出す「絹糸腺」が肥大化し、自分の体重の重さで木にしがみつくこともできない。

 日本では江戸時代、学のある人たちの間で養蚕業が広がったようだ。日本の養蚕技術は本となり、来日したドイツ人医師シーボルトによって欧州にも持ち帰られた。この土壌のうえで、明治政府が官営の富岡製糸場を作るなどし、外貨獲得の手段として養蚕業を推奨した。

 ただ、1930年代以降にナイロンなどの化学繊維が普及。中国などから安価な絹製品が輸入されるようになったことも影響し、一時は220万戸あった国内の養蚕農家は500戸以下へと激減した。

 青息吐息だった日本の養蚕業を激変させたのが、遺伝子組み換えカイコの生産技術だ。2000年、農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所(現農業・食品産業技術総合研究機構=農研機構)が、卵の段階で遺伝子を改変して、抗体を含んだ糸を吐くカイコを作り出した。将来の生殖器となる部分を狙って遺伝子を注入するのがポイント。成功すれば、遺伝子は子孫へと伝わり、組み換えカイコは代々、人間が望んだ性質の糸を吐き続けることになる。

 カイコはなぜ、抗体の抽出源にふさわしいのか。農研機構新産業開拓研究領域の門野敬子領域長は、大きく4つの理由を指摘する。

 1つ目は安価な飼料で1m2当たり1000匹規模の高密度飼育が可能なこと。生産性が高く、安定供給できる。次に、飛ぶ能力が無いため管理が容易な点。組み換えた遺伝子が想定外に拡散する可能性が低い。3つ目は成長が早いこと。カイコの一生は1カ月半ほどで、メスは300~500個の卵を産む。最後は、長い歴史の中で、人間に感染する病気が確認されていない点だ。

 繭の生産量で全国の4割弱を占める群馬県。前橋市に拠点を構える免疫生物研究所の冨田正浩取締役・遺伝子組換えカイコ事業部長はこう話す。「カイコからできる抗体は不純物が少なく、ウイルスへの働きかけが強い」