ものづくり企業にとって取り組んでいて当然のキーワードになったIoT。思うような効果が出ないと悩む企業も多いが、原因はIoTの捉え方にある。先行する欧米企業はデータを起点とした業務プロセスの確立を着々と進行させている。

(日経ビジネス2018年8月6日・13日号より転載)

 欧米企業はIoTについて、データの収集・分析だけにとどまらず、データをさまざまな形で回す「データ活用のループ」を確立することに力を注ぐ。中心にあるのは、実際のモノや出来事をデジタルに再現する「デジタルツイン」。IoTは、デジタルツインを充実させるための手段という位置付けにある。

●シーメンスのバート・ノイシュタット工場
主に産業用モーターを生産。シーメンスにおいてデジタルツイン実践の場という位置付けにある(写真=2点:シーメンス提供)

シーメンスの先端工場

 独シーメンスがIoT活用を深化させる舞台が、産業用モーターなどを造る同社のバート・ノイシュタット工場。ここではデジタルツインの取り組みを2段階で推進している。第1は製品や設備の3D(3次元)データなどを駆使した生産シミュレーション。第2は3DデータとIoTデータの連携だ。

 生産シミュレーションでは、実際に生産ラインを構築する前にデジタルでバーチャルな生産ラインを再現。生産性や品質などを詳細に検証する。後工程での手戻りを防ぐため、高品質な3Dデータを活用。量産開始までの期間やコストを削減する。

 この工場では自社のIoT基盤「マインドスフィア」を使って生産ラインの稼働データを収集。稼働データは単独で活用するほか、生産シミュレーションで使った3Dデータなどを管理するシステムとも連携させる。遠隔監視や予知保全だけではなく、「品質不良が起きやすい設計」や「故障しやすい設備」といった深い分析を行い、次期製品へのフィードバックや生産シミュレーションの精度向上なども実現する。

 シーメンスはマインドスフィアを製造業やエネルギー産業など多様な産業向けに提供。データの収集・分析に続く段階として「クローズドライフサイクルデータループ」という概念を提唱する。これにより、IoTでのデータの収集・分析から次に取るべき行動や意思決定を導き出し、その行動や意思決定の結果を再び収集・分析に回すというデータ活用のループを確立する。

 データ活用をさらに加速させる技術としてシーメンスが期待を寄せるのがAI(人工知能)だ。2018年4月にドイツ・ハノーバーで開催された産業技術の展示会では、デジタル世界に構築したロボットのデジタルツインを出展。最適な制御プログラムをAIに学習させ、実際のロボットに適用するデモンストレーションを披露した。

●相互に高めあうフィジカルとデジタル
従来は、デジタルで検証してから現場(フィジカル)に展開する生産シミュレーションが中心だった。今後は、IoT活用で現場からデジタルへのフィードバックなども進む
デジタル世界でAIによってロボットの最適な制御プログラムを学習し、フィジカル世界のロボットに展開する(「ハノーバーメッセ2018」でのデモンストレーション)