「ミュオグラフィーを使ってダムや橋梁、トンネルなどのインフラを点検するベンチャー企業を立ち上げたい」と意気込むのは、名古屋大学高等研究院の森島邦博特任助教だ。

ミュー粒子を検出する乾板を掲げる名古屋大学高等研究院の森島邦博氏

 森島氏らの研究グループはエジプトのピラミッドの内部構造をミュオグラフィーで観測し、17年に「未知の巨大空間を発見した」と発表して注目を集めた。クフ王のピラミッドの「大回廊」上部に、長さ30m以上の空間があるという。これまで発見できなかった秘密の部屋の存在が明らかになった。

 同じ技術を使えば、橋梁などの鉄筋コンクリートに空洞がないかを調べられるという。コンクリートを型枠に流し込んだときに小さな空洞ができると、その中で鉄筋がさびて切れる恐れがある。ダムであれば水が染み込むような亀裂がないかを、トンネルの場合は周辺の地層に断層がないかを調査できる。森島氏はインフラの安全点検作業を効率化できると考えている。

 東大地震研の田中氏の観測装置が大きなデジカメだとすれば、森島氏の装置は昔ながらの銀塩カメラだ。フィルムと同じように臭化銀を塗った乾板を、数十日間放置しておく。後で現像すると、ミュー粒子が通り抜けた場所が銀粒子となって浮かび上がる。電源が確保できない場所でも観測できるメリットがある。

 乾板は複数の場所に設置する。三角測量の原理を用い、密度の低い場所を3次元で特定するためだ。ピラミッド内部にある未知の空間もこの原理で見つけた。同じ方法で精度を高めれば、インフラ内部の空洞などの位置を絞り込むことができる。

溶け落ちた核燃料を探せ

 ミュオグラフィーは福島第1原子力発電所の透視にも使われた。炉心にあった核燃料が、事故でどの程度溶け落ちたかを調べるためだ。放射線量が高く作業員が立ち入るのは危険が伴うため、建屋の外から炉心を透視できるミュオグラフィーが好都合だった。

 調査を担当した国際廃炉研究開発機構(IRID)燃料デブリ調査・評価技術グループ長の永野護氏は、「廃炉に向けて核燃料を取り出すためにも、どこにどのような形で存在しているのか把握する必要がある」と解説する。

 1~3号機を透視した結果、1号機の炉心にはほとんど核燃料が残っておらず、大部分が溶け落ちていることが分かった。2号機も一部の核燃料が炉心から溶け落ちていることが確認され、3号機は2号機より多くの核燃料が落下したと推定できた。今後この観測結果を参考に、カメラを搭載したロボットを使って状態をより詳しく調べる。

 19世紀の終わりにドイツのレントゲン博士が発見したX線は、病気の治療に革命を起こした。21世紀のミュオグラフィーがレントゲン撮影に匹敵するインパクトを持つかは、火山の噴火予知やレアメタルの探査など幅広い領域で目覚ましい成果を上げられるかどうかにかかっている。