火山を観測する巨大なデジカメ

 火山を透視する場合、山麓に観測装置を設置して山に向ける。田中氏が開発した観測装置は、ミュー粒子に反応するイメージセンサーを搭載する。センサーは1辺が約50cmの四角形で、10万画素の解像度を持つ。巨大なデジタルカメラのような装置だ。

巨大な物体をレントゲンのように透視する「ミュオグラフィー」
●マグマの上昇を観測し噴火を予知する
宇宙から降り注ぐミュー粒子は密度が低い物質ほど多く通り抜ける。ミュー粒子を多く観測できた部分には空洞などがある(イラスト=normaals/Getty Images)
観測結果
東大地震研の田中宏幸教授が観測した薩摩硫黄島(写真=田中 宏幸)
観測装置
イメージセンサーを重ねてミュー粒子が飛んできた方向を測る(写真=田中 宏幸)

 イメージセンサーを2枚以上重ね、1枚目と2枚目を通過した点をつなげば、どの方向からミュー粒子が飛んできたかが分かる。火道の部分を通過するミュー粒子が少なければ、密度の高いマグマが上がってきている証拠となる。逆に通過する数が多ければ、火道が密度の低いガスで満たされている状態にあると推測できる。一定期間にわたってミュー粒子の観測を続ければ、マグマの動きを把握できるというわけだ。

 これまで田中氏は、浅間山(群馬、長野県)や薩摩硫黄島(鹿児島県)をミュオグラフィーで観測。現在は桜島(同)の観測を進める。桜島の周囲に約20台の装置を設置し、様々な角度からミュー粒子を観測することで、火道の様子をよりくっきりと描き出そうとしている。火山性地震の計測や、GPS(全地球測位システム)を使った地殻変動の観測など、既存の技術と組み合わせることで、噴火予知の精度を少しでも高めるのが目標だ。リアルタイムでマグマの動きを観測できる態勢を構築できれば、早期の避難準備に生かせると考える。

 噴火対策だけではない。田中氏は「ミュオグラフィーは石油埋蔵量の調査にも応用できる」と語る。石油関連技術の開発団体と共同で検討を進めるのは、油田に残っている石油の量を推定する技術。ボーリングによって石油がたまっている地層の下まで穴を掘り、観測装置を置く。油層を通り抜けてくるミュー粒子の数から埋蔵量を把握する。

 鉱物探査にも応用できる。田中氏は石油天然ガス・金属鉱物資源機構とも協力し、ミュオグラフィー技術の検討を進めている。レアメタルが眠っていそうな海底にボーリングで深い穴を開け、観測装置を設置する。レアメタルは通常の物質よりも密度が高いので、ミュー粒子の観測数が少なければレアメタルが存在する可能性が出てくる。

ミュオグラフィーの応用範囲は広い
●内部構造を浮かび上がらせる仕組み
物質密度の濃淡から石油埋蔵量やピラミッド内の空間、福島第1原発の核燃料の様子を観測する(写真=左:ScanPyramids、右:東京電力ホールディングス)