AI(人工知能)の成長はデータ量が鍵を握る──。こんな定説を覆す研究が盛んになってきた。事前に「常識」や「想像力」を仕込むことで、大量のデータが無くてもAIを賢く育成できる。特に研究が盛んなのは、そもそもデータを取得することが難しい異常検知などの分野だ。

(日経ビジネス2018年6月18日号より転載)

 「子供はキリンの写真を1枚見ただけで、キリンがどんな動物か分かる。最高の深層学習システムでも数百、数千枚のデータが必要なのに」

 米グーグルの親会社、米アルファベットの傘下でAI(人工知能)を開発する英ディープマインドは2016年、こんな言葉で始まる論文を発表した。研究の内容は、ヒトの「ワンショット学習」をAIで再現する方法の考察だ。

 ワンショット学習とは、乳児などの学習機能を指す認知科学の言葉だ。乳児は一目見ただけでキリンがどんな特徴を持った動物か把握し、他の動物と区別できるようになる。一方、近年のブームのきっかけとなった深層学習AIは、大量のキリンの画像を読み込まなければ、キリンを判別できない。

 深層学習はヒトの脳神経を模して開発されたのに、なぜ乳児のまねができないのか。この問題を長年研究する米ニューヨーク大学の認知科学者、ブレンドン・レイク氏はこう語る。「ワンショット学習を実現してこそ、機械は本当の知性を獲得したことになる」

ワンショット学習の威力を示す好例が、手書き文字の認識だ。例えば「夫」という文字の画像をAIが学習し、他の文字と区別するとしよう。

 同じ書体で書かれていれば簡単だが、行書体で1画目と2画目の横画がつながっていたり、4画目の右払いが点のように離れていたらどうだろうか。ヒトならばそれでも「夫」と認識できる可能性は高いが、AIは「天」や「大」と混同するかもしれない。一般的なAIが正確に判別するには、様々な書体の「夫」を学ぶ必要がある。

1ワンショット学習 一目見ただけで「何か」を認識
乳児は初めて見るものでも、一目でその特徴を把握できる。アセントロボティクスは、この学習機能をロボットに応用する計画
深層学習AIは、たくさんのキリンの画像を見て学習しなければ、キリンという新しい概念を理解できない
(写真=乳児:Image Source/Getty Images、ロボット:Westend61/Getty Images、キリン6点:PIXTA)
一瞬でつかむものを 認識するロボット