埋め立てで地続きになった「竜頭島」は住民の要望で保存が決まっていた。にもかかわらず、宮城県が誤って掘削したことが住民からの指摘で判明した。担当者は事前の確認はしたものの、チェックに不十分な点があったと認める。
(日経ビジネス2018年10月29日号より転載)
[宮城県農林水産部漁港復興推進室室長]
小林和重氏
1961年生まれ。東北学院大学工学部卒業後、宮城県庁に入庁。土木畑を中心に歩む。2017年から現職を務める。宮城県内では11年の東日本大震災の後、漁港海岸整備が145カ所、83.3kmを対象に進んでいる。
SUMMARY
竜頭島の誤掘削の概要
竜頭島は宮城県塩釜市にあり、かつては白い岩肌が美しい島として知られた。周辺の漁港整備による埋め立て工事で地続きになる際、取り崩す計画があったが、地元住民の要望で保存された経緯がある。今回は、宮城県が近くに防潮堤を整備するにあたり、保存の対象であることに気づかないまま7月に4分の1を掘削したことが住民の指摘で発覚した。
宮城県は塩釜市で進めている防潮堤の新設工事にあたり、地元の要望によって保存を決めた「竜頭島」を誤って掘削しました。住民から指摘を受けたことがきっかけで判明。村井嘉浩知事は「真摯に受け止めたい」と述べました。私は県の担当者として、大変申し訳ないと感じています。
津波対策の一環で工事に着手
竜頭島はもともとは海に浮かぶ島でした。1987年に漁港整備などのために周囲を埋め立て地続きになっていますが、島の上部だったところが地面から盛り上がった形になっています。高さは6mほど。長さが約15m、幅が約10mあります。埋め立て工事は96年までかかっています。
東日本大震災の津波被害から、県は数十年から百数十年に1度起きる津波を対象とした防潮堤の整備を進めています。塩釜港周辺では2017年11月から防潮堤の建設を進めています。
その一環として竜頭島に防潮堤の一部を接続。竜頭島に津波を防御する機能の一部を持たせる計画を立案しました。当初の計画では、乗り入れ道路を造るため、竜頭島の3分の2ほどを掘削する計画でした。
6月28日にまず竜頭島に生えていた大量の植物を伐採。7月6日からは重機を使った本格的な工事をスタートし、掘削作業を進めました。
「島を崩しているようだが、何をしているのでしょうか」。そんな連絡が県の仙台地方振興事務所水産漁港部の現地事務所に入ったのは、工事を開始してから5日目の7月10日でした。連絡をしてきたのは、塩釜市の漁業協同組合のメンバーで、埋め立ての時に竜頭島の保存のために活動していました。現場事務所を通じて「掘削している場所は、我々が残すように要望しておいた部分であるはずだ」という指摘を頂きました。
7月11日に担当者が急きょ、連絡をくれた方、そしてやはり保存に関わっていた方の2人と直接、会いました。この時点で竜頭島は4分の1を崩した状態でした。話の内容から「埋め立てはするが、地面から突出した部分は残す」と約束していた過去の経緯が明らかになり、工事をここで自発的にいったんストップしました。
すぐに当時どのような取り決めがなされたか確認しました。すると、埋め立ての申請書類に「緑地としてこの島を保存する」ことが土地利用計画に記されていると分かり、連絡を下さった方々の主張が裏付けられました。同時に塩釜市の教育委員会に問い合わせをしました。その結果、市の文化財には指定されていないものの、市が発行する文化財ガイドなどに掲載していることも分かりました。
県では外部から指摘を受けるまで、こうした埋め立て時の要望や約束について把握できていませんでした。埋め立ての申請書類を工事に当たってチェックすることもありませんでした。
防潮堤の新設に当たっては、工事する場所が松島の特別名勝から外れており、竜頭島の工事に法的な縛りがないことはあらかじめ確認していました。同時に県や塩釜市の文化財として登録されているかを確認。該当しないため、工事に問題がないと判断していました。
5月には周辺の漁業関係者らを対象にした説明会を塩釜市の職員も参加する形で開催。竜頭島を掘削することも説明したのですが、この段階では異論が出ませんでした。このため、県としては問題がないと判断して工事を進めました。
もっと丁寧なやり方をするならば、やはり工事を始める前には文化財を管轄する塩釜市の教育委員会に確認しておくべきでした。それをしなかったことから、突出した部分を残す取り決めに気づきませんでした。約束を守れなかったことを申し訳なく思っています。
私は指摘を受けてから現場を訪問しました。工事がストップしたまま、竜頭島には重機で崩した岩塊などが運び出されないまま積まれていました。海側から見た時には島の面影がありましたが、地続きの陸からはかなり掘削された印象を持ちました。
掘削したことに対して、県に直接抗議する声は今のところ届いていません。地元ではテレビや新聞などを通じて「残念なことだ」といった声が伝えられています。
竜頭島に関連した周辺の工事は中止されたものの、竜頭島は4分の1が掘削された(写真=共同通信)
保存に向け計画を変更
今になって思えばという話になりますが、港の利用計画上、不必要ともいえる「丘」のようなところがなぜ漁港用地内に存在しているのかについて疑問を抱けたならば、「何かしらの経緯やいわれがあるのでは」と考え、より詳細な調査や聞き取りを実施していたはずだと思います。やはり、様々な形で常に疑問を持つことや深読みすることが大事だと痛感しています。県に対して連絡をくれた方に対しては、早い段階から一連の経緯を説明させていただき、納得していただけました。再び植栽したり成形したりすることもあると思います。今後については、当時の経緯を知る人たちにご協力いただきながら、進めていきます。
竜頭島に関連した工事はストップしており、この部分の計画は再検討している状態です。防潮堤の取り付け位置などを含めて工事方法は変更になります。ただし、防潮堤全体の設計には影響がありません。また工事の進捗についても竜頭島の工事が止まった分、ほかの工事を優先しているため、特に影響は出ていません。
県による防潮堤をめぐっては今回の塩釜市以外にもミスが起きています。例えば、気仙沼市で計画より22cm高く施工したことが明らかになり、地元のおしかりを受けました。
こうした事案を再発しないようにするため、これまで以上に地元を含めた調整や確認作業をしっかり進めていきたいと考えています。
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