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日本レスリング協会は4月6日、理事会後に記者会見し、第三者委員会による調査で栄氏のパワハラ行為が認定されたと報告。福田富昭会長(右から2人目)らが謝罪した(写真=日刊スポーツ/アフロ)

 10年のアジア大会の代表選考で伊調さんが外れたことも、パワハラ認定を受けました。しかし、これは日本レスリング協会の理事会で決めたことで、私が勝手にしたことではありません。「15年の男女合同合宿中、協会の指示で外出した田南部氏を叱責した」とされる項目については、田南部氏が日ごろから練習を抜けることが多かったのが背景にありました。協会の指示というのは定かではありません。強化本部長だった私が知らないわけですから。

 一連の騒動は、年初に「告発状」が内閣府公益認定等委員会に送られたことが始まりでした。私が強化本部長の地位を利用し、田南部氏を脅したり、警視庁の施設への伊調さんの出入りを禁じたりしたといった内容です。「伊調選手の5連覇を阻止しようとしている」という印象づくりだったのでしょう。認定された過去のパワハラについては反省していますが、私が諸悪の根源とイメージづけられた感は否めません。

 6月の全日本選抜選手権の期間中に謝罪会見をしました。至学館大学監督として現場復帰したタイミングで、協会から「会見してほしい」と言われて応じました。夜はフリーだったため、友人と食事に行きました。女性が同席し、その後、キャバクラに案内されました。誘いを断れない気持ちがあり、15分くらいで出ましたが、うかつでした。

 6月中旬に監督を解任され、8月には大学も退職しました。谷岡郁子学長からは全日本選抜の試合中、選手のセコンドにつくように言われましたが「伊調さんに謝れ」とヤジが飛んでは、選手が集中できません。昼食で外に出たのはお客さん対応でした。指示に従わず監督をクビになりましたが、これまで支えてくれた学長には感謝しています。

高校時代は自宅に下宿

 伊調さんが故郷の青森県から愛知・中京女子大学付属高校(現至学館高校)に入学してくれたことは、レスリング日本女子の躍進の原動力になりました。当時は合宿所や寮がなく、彼女は私の家に下宿していました。高校までの片道1時間を車で送り迎えし、夜は至学館大の練習に参加させました。

 伊調さんは02年世界選手権を高校3年生で制し、至学館大に進学しました。厳しいトレーニングを積む中で、吉田沙保里さんや坂本日登美さんらが成長し、伊調さんの姉の千春さんも他大学から至学館大に移りました。それから10年以上がたち、今では誇りと思えるチームができました。

 伊調さんの功績は偉大ですし、感謝もしています。ただ、世代交代は進んでいました。強化は継続性を持たせなければなりません。伊調さんは4連覇したリオデジャネイロ五輪後、20年の東京五輪には出ないと公言し、実際にアスリート契約もしていなかった。その間、日本代表の強化は軌道に乗り、好結果が出ていました。東京五輪に向けていいチームができつつありました。

 8年前、必要な状況があったとはいえ、指導がパワハラと認定されたことは反省しています。言葉がきつく、コミュニケーション不足があったのだと痛感しています。ただ「アスリートファースト」を考えなかったことはありません。一方で、「伊調ファースト」のスタンスは取れませんでした。

 告発状については、9月中旬、作成に深く関わったとみられる田南部氏に対し、名誉毀損の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴しました。これまでは「今更、何をしても悪く言われるだけではないか」と考え、おとなしくしていました。ただ、それで全てを失ってはやりきれません。入り口が違っていたということは、しっかりと伝えていきたいと思います。