川添監督から、留学生がもっと日本語を勉強したがっていると言われ、6月から私が週3回、日本語の授業を始めました。小学校1年生の教科書を使うのです。ただ留学生4人のうち、この選手はとうとう一度も私の授業に来ませんでした。母国語のフランス語を話せる人は校内にいませんでした。2年前までは教員が1人いたのですが、定年退職してしまったのです。

 こうした状況で事件は起きました。事件後は、本人はひたすらごめんなさいばかりで、本当に反省しているようでした。おそらく殴ったのは衝動的な行動なのではないかと思います。聞けばいつもはおとなしいコンゴからの先輩留学生がかなり怒ったようです。

 警察に行ったり記者会見をしたりと慌ただしい中、6月20日の夜に保護者会を開きました。保護者会が終わると殴った子とコンゴからの先輩の2人が入ってきました。殴った子は泣き崩れて監督にすがりついて、土下座してすいませんと謝るばかり。川添監督は解任(教師としては停職、2学期から復職)ですが、先輩も「監督がやめるなら俺もコンゴに帰る」と言うので、みんなで涙してしまいました。

 保護者もチームメートも怒りはぶつけませんでした。起きたことは仕方がない、と割り切っているように見えました。救いはまだウインターカップに出場できるチャンスがあることです。予選は10月から。ありがたいことに全国高等学校体育連盟からも日本バスケットボール協会からも、申し込んでいいと言われています。自主的な処分(3カ月の対外試合禁止、インターハイ辞退、監督解任、校長などの減給)を受け入れてくれたのです。

<span class="fontBold">スポーツ強豪校の延岡学園の校長室には、多くのトロフィーや盾が飾られている</span>
スポーツ強豪校の延岡学園の校長室には、多くのトロフィーや盾が飾られている

 事件後、本人も家族も帰国を希望しました。心配した刑事罰もありがたいことに告訴されなかったので、できるだけ早く帰すことに決めました。騒ぎになって危険なので本人は出歩けず寮に缶詰めでした。誹謗(ひぼう)中傷の電話も多くかかってきました。

空港でも土下座して謝罪

 帰国は6月29日。成田や関西空港経由だと目立ちます。人目につかないように宮崎空港から韓国の仁川に出国させました。空港でも警察が付き添ってくれました。私と監督、保護者で見送りましたが、空港でも土下座して謝られつらかったです。学校を出る時も、1時間目と2時間目の間の10分の休み時間に出発しました。大勢の生徒が見送りに降りてきて、泣く子がいたり頑張れと叫んだり。地元の町内会の方々も見送りに来てくれました。

 でも最後まで彼の本音は分からずじまいでした。なんでこうなったのか。コミュニケーション不足が最大の反省点だと思っています。早速、対策は始めています。

 宮崎市に住む日本語を話せるフランス人の方に週1回、カウンセリングに来てもらうことにしました。まず7月に1度、2年生のコンゴからの留学生と面談してもらったんです。彼は普段はおとなしいのですが、こんなにしゃべるのを見たことがない、というくらい話をしていました。そして「うちの仲間は諦めが早い、試合中に具体的な指示を日本語で出せない、こういったことがストレス」という本音を初めて聞くことができました。

 できたら今後も留学生の受け入れは続けたいと思っています。留学生がいないと勝てないという現実があるのはその通りかもしれません。でも個人的な考えですが、日本のバスケのレベルはまだあまり高くない。留学生が交ざることで世界水準を知ることができます。日本バスケの向上を考えれば悪いことではないと思います。

 今回の件が、留学生を受け入れている全国の高校にとって他山の石になれば、せめてもの救いです。

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